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かえるよめ
『蛙嫁』

― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
採集・再話 今村義孝 / 今村泰子

 むかし、あったわけだ。
 夫(とと)と嬶(かか)と二人仲好(なかよ)く暮(く)らしてあったとな。楽な暮らしであったども、嬶病気になって死んだしまったと。

 それからていうもの、二人して稼(かせ)ぐ人を見れば、羨(うら)やましくて、羨やましくて、嬶欲しとてさがしてみるども、なかなか見つからねわけだ。
 ある細雨(ほそあめ)の降る日、蛙、ギャ、ギャ、ギャて雨呼(あまよ)ばりして鳴(な)いていたとな。

蛙嫁挿絵:福本隆男

 「うん、うん、蛙でも夫婦(ふうふ)して、面白くて、ああしてさえずるべな。おれも蛙の嬶でもいいべどもなぁ」
て、つぶやいたわけだ。晩方(ばんがた)なったきゃ、
 「御免(ごめん)ください」
て、つづれこ着た、しまの風呂敷(ふろしき)背負(しょ)った女、訪ねてきたと。


 「嬶いねぇ話聞いて、嬶にしてもらいたくて来た」
て、云(い)ったと。そこで夫、大した喜(よろこ)んで、
 「これから楽寝(らくね)させるから、いてけれ」
て、おくことにしたと。

 夫、嬶を大事に大事にして暮らし暮らししているうち、ある日、
 「夫、夫、おれ実家から法事(ほうじ)のお使い来たで、一度行って来るでぁ」
て、云うわけだ。
 「おうおう、そんだか。行って来い。何か持って行かねたっていいか」
 「なにもいらね、なにもいらね。一人身で行くから」
とて、持ってきた時の、しまの風呂敷背負って行くわけだ。


 夫、不思議(ふしぎ)だと思って、ずっとずっと田の畔(くろ)つけて、ばらの棘株(とげかぶ)のかげさ行って見てたと。
 したきゃ、堤(つつみ)の上に行ったと思ったば、川の中さドブンと入ったとたんに、今度、ギャロ、ギャロて集(あつま)って鳴くわけだ。

 「さては蛙であったか」
と、思って見てたけ、今度ぁ集ったも集った、川一杯集ってきて大きい蛙先になってギャロ、ギャロと廻(まわ)って歩くわけだ。
 夫、そのあたりの一番大き石拾って、一番大き蛙めがけてドンとぶっつけたば、鳴き声止まってしまって、なんぼ待っても聞(きけ)ぇなくなってしまったと。


 次の日、
 「あい、やや、今来た。夫、大した騒動(そうどう)であったや」
て云うので、
 「なしてや」
 「まぁ、まぁ、和尚さん来て、おつとめあげて、陀仏(だぶ)あげていたきゃ、どこかの乱暴人(らんぼうにん)きて、和尚さん頭さ石ぶっつけて、大怪我(おおけが)させてしまった」
て云ったと。
 それ、蛙の化物であったと。
 とっぴん ぱらりのぷ。

「蛙嫁」のみんなの声

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