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おしょうとこぼうず もちとうたよみ
『和尚と小坊主、餅と和歌詠み』

― 青森県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし、あるお寺に和尚(おしょう)さまと施物(せぶつ)を司(つかさど)る納所坊主(なっしょぼうず)さんと小坊主(こぼうず)との三人がいたと。
 
 ここの和尚さまは餅(もち)が大好きで、他所(よそ)から貰(もら)ってもいつも己ひとりで食べるのだと。
 小坊主は食べたくてならない。
 ある小正月(こしょうがつ)に檀家(だんか)が餅を持ってきたと。和尚さまが己の部屋に持って行こうとしたら、小坊主が、
 「和尚さま、わたしにも餅、食べさせて下さいませんか」
というた。和尚さまは、ちょっとの間考えて、
 「そんなら、正月らしく上手(じょうず)に和歌(うた)を詠(よ)んだ者に食べさせるとしようか」
というた。

 
 和尚さまの部屋に集(あつ)まり、火鉢(ひばち)に餅網(もちあみ)を置き、餅を焼(や)きながら和歌を詠みくらべすることになった。
 ちょうどそのとき、お寺の薪割(まきわ)りの親父(おやじ)がきた。その親父も和歌詠(うたよ)みに加わったと。
 先(ま)ずは小坊主から、と言われたが小坊主は和歌を識(し)らん。後退(あとずさ)りながら、
 「一番歳下(としした)の私なんぞがはじめとは、滅相(めっそう)もない」
と謙遜(けんそん)した。
 そんなら、と納所坊主さんから始めたと。
 
  朝々に 雨戸にさわる梅の枝
  剪(き)りたくもあり 剪りたくもなし
 
と詠んだら、和尚さま、
 「うん、なかなかきれいにまとまった」
というた。

 
 次は薪割(まきわ)りの親父の番だ。
  朝間から 今まで割ってら木の根っ子
  割りたくもあり 割りたくもなし
と詠んだ。和尚さま、
 「うん、実感(じっかん)がこもっておる」
というた。
 
 いよいよ小坊主の番になった。
 はて困った。前二人が詠んでくれたのでなんとはなしに口調はわかった。だが、何を詠んだらよいか思いつかない。また、すこしずつ後退ったと。小坊主の困った様子を、和尚さまと、納所さまと、親父が、面白がって見とった。
 そのうちに小坊主、和尚さまの顔をしげしげと眺(なが)めて、こう詠んだ。
 
  朝々に 座る和尚の坊主頭
  割りたくもあり 割りたくもなし
 
 さあ、和尚さまな怒(おこ)るまいことか。顔も頭も真っ赤にして、
 「この、くそ小坊主めが」
と、今焼いている餅をひっつかむや、小坊主めがけて投げつけた。またつかんで投げつけた。また、投げた。

 
 小坊主は、しめたとばかりに、その餅をみんな拾うて、それから逃(に)げたと。
 
 とっちぱれ。 
 
和尚と小坊主、餅と和歌詠み挿絵:福本隆男
 

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小坊主さん、この後どうなったんでしょうか…( 50代 / 男性 )

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