― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、昔、ある山の中に一軒(いっけん)の家があったと。
おっ母(かあ)と童(わらし)と二人、いてあったと。畑をちょっとと、お蚕(かいこ)さんをちょっと持っていたと。
ある晩(ばん)げ、おっ母が繭玉(まゆだま)から糸を紡(つむ)ぎ、トンカラリンと機織(はたお)るべえと思うて、繭玉を煮(に)ていたら、山ざわめかして鬼婆(おにばんば)来たと。
「おっ母、いたかぁ」
「わーい、おっかねえなぁ」
「いい匂(にお)いかいで遊びに来た。繭煮てるなぁ」
おっ母、黙(だま)っていたら、鬼婆、
「四、五桶(おけ)ぐれえ煮れえ、煮ねえなら、童食っちまうぞう」
と言うた。
「繭、煮えたぁ」
と言うと、
「そだら、ここさ持ってこぉい」
と言うて、ムシャムシャ食ったと。
「明日の晩げは十桶(とおけ)ぐれえ煮とけぇ」
と言うて、鬼婆、山さ帰って行ったと。
「おっかねかったぁ」
おっ母、童かきいだいてしゃがみこんだと。
次の晩げ、おっ母、繭玉十桶煮ていたら、鬼婆、また山ざわめかして来たと。
「おっ母、いたかぁ」
「わーいおっかねえなあ」
「いい匂いかいで遊びに来た。繭煮てるなぁ」
おっ母、黙っていたら、鬼婆、
「ここさ、持ってこぉい」
と言うて、桶抱(だ)いて、ムシャムシャ食ったと。
「明日の晩げはドブロク一斗(いっと)も買っておけぇ」
と言うて、鬼婆、山さ帰って行ったと。
「おっかねかったぁ」
おっ母、童かきいだいてしゃがみこんだと。
次の晩げ、鬼婆、また、山ざわめかして来たと。
「おっ母、いたかぁ」
「わーい、おっかねえなぁ」
「いい匂いかいで遊びに来た。ドブロク買っておいたなぁ」
「買っておいたぁ」
「んだら、おっ母に布(ぬの)やるべぇ。なんぼ欲しい」
「なんぼでもええ」
と、言うと、鬼婆、腹押(お)して、口から、一尋(ひとひろお)二尋と布を出し、十尋(とひろ)も出して、
「おっ母、ドブロク、ここさ持ってこぉい」
と言うた。
鬼婆、一斗樽(だる)かかえて、ドクリドクリ、ドクリドクリ飲んだと。
挿絵:福本隆男
飲んで飲んで、眠(ねむ)ってしまったと。
おっ母と童、二人で鬼婆を長持(ながもち)に入れ、
「ここさ寝てろぉ」
と言うて、湯を煮たてた。
煮えたった湯を鬼婆にかけたら、鬼婆、
「ちかちか、虫コ刺(さ)すじゃあ」
と、寝言を言うた。おっ母、
「ちかちかしなくしてやるう」
と言うて、さらに湯をわかし、グワラン、グワラン煮たてて、ドウド、ダンバとかけたと。
鬼婆、死んだと。
おっ母、鬼婆を森の繁(しげ)みに運んで、
「山の生きものさまに捧(ささ)げたてまつるう」
と言うて、切りきざんだと。
風がざわぁっと吹(ふ)いて、骨のかけらが落ち、肉のかけらがとんだと。
下に落ちた骨のかけらが虱(しらみ)になり、上にはねた肉のかけらが蚤(のみ)になった。だから虱は白くて、蚤は赤い。虱や蚤が人を食うのは、昔に鬼婆であったからなんだと。
とっちぱれ。
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昔、昔。一人の山伏(やまぶし)居(え)だけど。何時(えじ)だがの昼間時(じき)、一本松の木の下歩いて居たけど。ちょこっと見だば、その木の根っコさ小さな狸(たぬき)コ昼寝(ひるね)して居だけど。
むかし。武蔵国のある村に、いたずらなタヌキがこっそりすんでいたと。いたずらでな、嫁どりの土産をもって千鳥足で帰っていく三平どんを見つけると、ドロンと、きれいな娘さまに化けて
「虱と蚤の由来」のみんなの声
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