― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに代々続いた大層な長者があったと。
あるとき、長者はふいの病であっけなく死んだと。あとには嬶様(かかさま)と娘が残された。
ある朝、嬶様は小川に、やまべがうようよ泳いでいるのを見つけた。嬶様は網で桶一杯にすくいあげ、その場で笹竹にさして焼いて食うたら、あまりのうまさに全部ひとりで食うてしまったと。
そしたら急にのどが渇(かわ)いて、小川に顔をつけてガンボガンボ飲んだと。飲んで飲んで飲んでいたら、だんだん身体が伸びていって、ついには恐ろしげな大蛇になったと。
大蛇になった嬶様は、水鏡に映った己の姿を見て驚いて、悲しくてのたうちまわった。
すると、にわかに空が暗くなり、大雨が降って、たちまち川の水があふれ、嬶様を呑み込んでしまったと。
家では娘が起きてみると嬶様が居ない。外は大暴風雨(おおあれ)だ。雨風は七日七夜(なぬかななよ)続いて止んだ。
が、嬶様は帰って来ない。それから月日が経ったが嬶様の行方さえわからなかった。
娘は家財を売り払い、嬶様を訪(たず)ねて旅に出たと。
あちらを訪ね、こちらを訪ねして、早や十年が経ったと。
路銀も使い果たし、見るからにうらぶれた姿になってある村にたどり着いたと。
その村の庄屋(しょうや)さまの家へ行ってみると、皆々泣き沈んでいる。
娘は、ひとりの爺さまにわけを聞いた。
「十年も前のことですがの、ある朝、何の前ぶれもなく大暴風雨が来ましただ。七日七夜暴れて止んだのち、あとに大きな沼が出来て、そこへどこから来たんか、大きな大きな蛇が棲みつきよりましたんじゃ。
ほったらかしにしとりましたら、長雨の頃、川をせき止めて大水(おおみず)を村にもたらしましての、村人が何人も死によりましただ。それが不思議なことに娘ばかりでの、そんなことがありましてから、村中で寄り合いましての、『これは大沼の主が娘を捧(ささ)げよと言うているのじゃ』ということになりましただ。
むごいことじゃ。今夜、庄屋さまの一人娘を大沼のそばに連れて行くことになっているのでみな悲しんでいますのじゃ」
と教えてくれたと。
娘は、
「それは気の毒なお話、私が身代りになりましょう」
と言うと、庄屋をはじめ、皆々驚いた。
「私は元長者の家に生まれ、親子二人で暮らしているうちに、嬶様は十年ほど前どこへ行ったか居なくなり、私は家財を売り払って嬶様を訪ね回って来ましたが、かいもく行方がわからない。路銀も使い果たし、今では何の望みもない身です。このまま野たれ死にするよりも、いくらか人様の為になることをして死にたい。私をあなたの娘ごの身代りに、沼の主にやって下さい」
庄屋が断るのを、娘は無理矢理納得させた。
娘は庄屋の娘の代わりに、沼のほとりに運ばれて行ったと。
夜がふけた頃、今まで物音ひとつしない沼の水が急にわきあがり、大蛇があらわれた。
娘は覚悟を決めて、
「私を呑む前に、私の言うことをひととおり聞いて下さい」
と、嬶様を訪ね歩いていることや、庄屋の娘の身代りとしてここに来たことを話したと。
「もう思い残すことはない。どうせ嬶様もこの世には居ないだろうし、私はあの世で嬶様に会いたいから、早う私を呑みこんで下さい」
と、両手を合わせて目をつぶったと。
ところが大蛇は、娘の話をきき終えると、皿のような目から涙をポトリポトリ落としながら、そのままずるずると沼の中に沈んで行ったと。
挿絵:福本隆男
娘は庄屋さまに引きとられ、実の娘と同じように可愛がられて幸福(しあわせ)に暮らしたと。
このことがあってから、大蛇は二度と姿を見せなくなり、沼の水も次第に涸(か)れてしまったそうな。
とっちぱれ。
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むかし、常陸(ひたち)の国、今の茨城県水海道(みつかいどう)のあたりで、何日も何日も雨が降り続いた年があったと。三月初めのころから降り始めて、四月になっても降(ふ)り止(や)まん。
むかし、むかし。ある国にとても厳しいきまりがあったと。六十歳になった年寄りは、山へ捨てに行かなければならないのだと。その国のある村に、ひとりの親孝行な息子がおった。母親が六十歳になったと
「大沼の主と娘」のみんなの声
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