民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 世間話にまつわる昔話
  3. 正月の夢

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

しょうがつのゆめ
『正月の夢』

― 青森県 ―
語り 平辻 朝子
再話 大島 廣志
再々話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに、次郎作(じろさく)、金太(きんた)、長吉(ちょうきち)という、たいそう仲の良い男たちがおった。
 正月二日の朝、次郎作は不思議な夢を見た。
 次郎作は、朝目が覚めるとすぐに金太の家を訪(たず)ねた。 

 
 「金太、実はな、おらぁ今朝がた変な夢を見たや。猿が金箱(かなばこ)を背負って、両手に餅を持って家ん中さ入りこんできた夢だ。この夢、どんな意味があるだべか、占ってけへ」


正月の夢挿絵:福本隆男

 
 「おう、いいとも。そりゃあ変な夢どころか、すんごくいい夢だべさ。猿が金箱を背負って両手に餅を持って来るのは、福の神がやって来るっていうことにちげぇねぇ。めでたいから前祝いするべか」
と言うて、二人で酒盛りをはじめた。
 そしたらそこへ、長吉がやってきて、次郎作の夢の話と金太の夢占(ゆめうら)を聞かされたものだから、三人でいよいよ呑めや唄えのドンチャンさわぎになったと。
 そうして、正月が過ぎて間もなく、次郎作にふってわいたように大金が転がり込んできたんだと。三人は、
 「ほらな、やっぱりな、福の神だべ。猿の夢は福の神だべ」
と、大喜びして、またまた酒盛りをしたんだと。

 
 そうして、いつの間にやらその年も早や過ぎて、次の年の正月二日の朝、今度は長吉が金太の家に駆け込んだ。
 「金太、金太、よぉく聞けよ。おらぁ、今朝がた不思議な夢を見た。めでたいんだべな。猿が金箱を背負って、家ん中で踊りを踊っている夢だ。次郎作と同じ夢だから、きっといい夢だべ」
 長吉は、去年中ずうっと次郎作のことがうらやましくてならなかった。それで、夢を見なかったのに夢を見たと嘘を言うた。 
 「その夢は本当か」
 「本当だ、本当だ」
 「そうか、それは困ったな」
 「何で困るんだ。去年の次郎作と同じ夢だべ。どこが悪いんだ」
 「長吉、お前(め)ぇのは次郎作と同じで無(ね)えんだ。猿は手に餅を持っていなかったべ。手にめでたい餅を持っていなかったから、福の神は来ねぇんだ。それどころか。逆なんだ。猿が金箱を背負って踊っただけで消えた夢は、お前ぇから金運が消えたってことなんだ。だから困ったなって言ったんだ」

 
 「そっただ馬鹿なことあるもんか。猿が餅なんか持っていねぇだって、きっと金が手に入るわい」
 長吉は、腹を立てて金太の家から出て行った。実は、長吉は次郎作をやっかんで一年すごしたばっかりに、つい、金箱のことしか頭になく、猿が手にしていた餅のことなんぞ、ころっと忘れてしまっていたんだと。
 その年、長吉の家の田圃(たんぼ)の稲には、一粒も実が稔(みの)らなかったと。嘘稲穂(うそいなほ)ばっかりだったと。 
 こんなこともあるから、新年早々、嘘を言ったり、他人(ひと)をうらやんだりしちゃあなんねぇだ。

 どんとはらい。 

「正月の夢」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

くだしょうの話(くだしょうのはなし)

 昔、ご飯をよそったときに、しゃくしでおひつのふちを絶対にたたくものではないと言われました。  それは行儀(ぎょうぎ)が悪いからというだけでなく、”くだしょう”がやってくるという大きな理由があったからです。

この昔話を聴く

不知火の松(しらぬいのまつ)

むかし、神奈川県(かながわけん)の大師河原(だいしがわら)というところに、お父と娘の二人暮(く)らしの漁師(りょうし)が住んでおった。お父は毎朝、木…

この昔話を聴く

丹波の一時餅(たんばのいっときもち)

昔は丹波(たんば)の一時餅(いっときもち)というのを食べると、すぐ馬になる、という諺(ことわざ)があった。それにはこんな由来があるのだそうな。昔、あ…

この昔話を聴く

現在883話掲載中!