民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 異界の娘との結婚にまつわる昔話
  3. 錦絵の姉さま

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

にしきえのあねさま
『錦絵の姉さま』

― 青森県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに貧乏な婆(ばあ)さまと伜(せがれ)が住んでおったと。
 伜がその日その日の手間取りに歩いて、わずかな手間賃をもらって暮らしておったと。
 ところがそのうちに婆さまが寄る年波に勝てずに死んでしもうた。
 そうしたら、伜は、食事の仕度や、洗濯や、何事につけても不自由この上ない。
 嫁をもらいたくても金は無し、わびしい一人住いをしておった。

 あるとき、手間取りに行った家の庭に、きれいな姉さまを画いた錦絵が落ちていた。伜はそれを拾うて来て、家の壁に貼った。
 そして、仕事から戻ると、その日一日の出来事を錦絵の姉さまに、まるで生きている人に話すように語って聞かせていたと。
 

 
錦絵の姉さま挿絵:福本隆男
 
 ある日のこと、伜が夜になって戻ったら、家の中はきれいに掃除がしてあった。
 囲炉裏には火がおきて、湯が沸いている。食事の仕度も出来ていて食べるだけになっていたと。
 「はて、いってぇ誰がしてくれたやら」
 不思議に思いながらも、その日は食べた。食べながら、壁の錦絵の姉さまに語りかけたと。

 
 「お前(め)はいつ見てもきれいだなや。お前みていな嫁はとっても望むことも出来ないが、仕事から帰って来て、今日みていに家の中が温(ぬく)もっていると、おら、お前と夫婦になったような気分だ。はい、おごっつぉぅさん」
 その夜は気分よく眠ったと。
 ところが、次の日も、その次の日も、来る日くる日が家の中がきれいになってご飯の仕度が出来ている。
 伜は、これはきちんと会って礼を言わなくてはならん、もし村の娘ならば嫁に来てくれろというつもりで、二階に隠れて様子を見ることにしたと。
 そしたら丁度昼頃になって、家の中に一人の美しい姉さまが立っておらした。
 伜は、はっとして目をこらしていると、姉さまはタスキをかけて、そこここを片づけしたり、掃いたり拭いたりした。それが終わると、囲炉裏に火を焚いて鍋に湯を沸かし始めたと。
 伜が二階から下に飛びおりたら、そのひょうしに姉さまはふんわり火に飛び入(い)って、ぼおっと燃えてしもうたと。

 
 伜はびっくりして燃えかすをよく見ると、灰には絵姿らしき形が残っていた。
 「はて、どっかで見た姿だな」
 と首を傾(かし)げて、何げなく壁を見た。そしたらなんと、壁に貼ってある錦絵の、姉さまのところだけが真っ白になっておった。 

 錦絵の姉さまは、嫁のない伜を不憫(ふびん)に思って、絵から抜け出て家事仕事をしてくれていたのだと。
 伜が飛び下りたあおり風のために、かわいそうに吹き飛ばされて焼けたんだと。
 絵でも何でも、いつも語りかけていると魂が入るもんなんだと。

 とっちぱれ。 

「錦絵の姉さま」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

悲しい

切ない( 30代 / 女性 )

感動

とてもよかったけど、最後が悲しかったです。( 10代 / 男性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

二月の部屋(にがつのへや)

むかし、あるところに爺さと婆さが暮らしておったと。ある日、爺さは山へ芝刈(しばか)りに行ったと。梅の古木(ふるぎ)をカッツン、カッツン伐(き)っていると、きれいなお姫様が現れて・・・

この昔話を聴く

早業競べ(はやわざくらべ)

むかし、あるところに長者どんがおらして、日本一仕事の早い者を雇(やと)う、というて、お触(ふ)れを出したと。そしたら四人集まって来たと。いろいろ早業…

この昔話を聴く

吉四六さんと鳶と魚売り(きっちょむさんととんびとさかなうり)

むかし、豊後の国、今の大分県臼杵市野津町大字野津市というところに吉四六さんという面白い男がおった。ある日のこと、吉四六さんにしては珍しくすることがなくて、縁台に腰かけていた。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!