― 秋田県 ―
再話 本城屋 勝
語り 井上 瑤
昔コあったじぉな。
むかし、ある所に仁助(にすけ)という、うんと稼(かせ)ぎ、酒もやらねえ、タバコもやらねえ、まじめな若者(わかもの)がいたっけど。
挿絵:福本隆男
んだが、どうしてだか、嫁コの来手(きて)がねェかったど。あちこち探して歩いても、どうしても、来る女子(おなご)がいねェかったど。
それもそのはず、時期が悪かったのであったど。10月は村々の神さまたちが、みんな出雲(いずも)の大社に縁結(えんむす)びの会議(そうだん)に出払っていて、神さまの居ねえ月であったから、仁助でねェくても、誰が探しても、同じことであったのだど。
そのことを村の物知りの婆さまから聞いて、仁助は、
「よし、それだば、出雲さ出かけて行って、おらの嫁がどこの誰それだか、聞いてくるのが一番ええ方法だべ」
と、考えて、焼き飯とわらじを沢山(じょっぱり)持って、出雲の国へ出かけて行ったど。
そして、宿屋に泊まったり、木の下に泊まったりしながら、ようやく出雲の大社に着いたど。
大社では、案の定、神さまたちが会議(そうだん)の最中であったけど。仁助はお堂の床下に潜(もぐ)って、それを黙って聞いていたど。
挿絵:福本隆男
神さまたちは、今、組み合わせの最中で、あそこの誰にはこの女、ここの誰にはあの男と、数えきれねぇくらい沢山の縁組(えんぐみ)を、次から次へと片付けていたっけど。
なんぼ待っても、仁助の名前は呼ばれねェかったど。そのうち、
「今年は、これで終わり」
と、いう声がしたっけど。
仁助はがっかりして、旅の疲れが一度に出て、ぐらっと倒(たお)れて柱に頭をぶっつけたど。
その時、
「あっ、忘れていた」
という声が頭の上でして、
「わが村の仁助という若者に組ませる娘はいませんか」
としゃべった神さまがあったけど。
そしたば、向こうのほうで、
「江戸の空洞柳(うとやなぎ)。ではこれで終わります」
と、いう声がしたっけど。
何が何だがわからねェかったども、とにかく、江戸へ行って空洞柳(うとやなぎ)を探してみるべ、と仁助は江戸に向かったど。
江戸に着いてからは、毎日毎日、空洞柳(うとやなぎ)を探して歩いて、とうとう、財布が空になってしまったど。んだが、それらしい柳は、どうしても見つからねェかったど。
ある夜、仁助は、最早(もはや)これまでと、死場所(しにばしょ)を探し歩いて、暗い池の淵(ふち)までやってきたど。
そしたば、何かに肩をごつんとぶつけたど。
「おや、何だべ」
と思って、仁助が手を当ててみたば、それは柳の木であったっけど。
「これが最後の木だなぁ」
と思って、手を回してみたば、何と、太くて太くて、仁助の手が五本あっても足りねぇくらいの木であったっけど。
「もしかしたら、これが空洞柳(うとやなぎ)かもしれねぇ」
と思って、反対側に回ってみたば、あった、あった。大っきい穴があったっけど。
「よし、今夜はこの穴に寝てみるべ」
と、仁助は、その晩そこに泊まったど。
挿絵:福本隆男
朝になったば、そばを通る人の話し声が聞こえてきたど。黙(だま)って聞いていたば、そのうち、
「昨日、大金持ちの木綿屋(もめんや)の娘さんが、餅(もち)をのどをつっかえて死んでしまったが、もしかしたら、生き返るかもしれねぇ」
という声が聞こえてきたっけど。
穴から出て、仁助があちこち眺(なが)めて見たば、池の向こう側に墓地(ぼち)があったど。行って見たば、新しい墓があったから、ここだと思って、捨ててあったクワで土を掘って棺桶(かんおけ)を出し、フタを開けてみたど。中には、きれいだ娘が入っていたっけど。
挿絵:福本隆男
仁助は、その娘を棺桶から出して腹ばいにさせ、足で背中をどんと踏(ふ)んだと。そしたば口からポロッと餅が出てきたっけど。
「これは助かるかもしれねえ」
と仁助は思って、今度は娘を仰向(あおむ)けにして、胸をなでたり、水を吹きかけたりしたど。
したば、娘が、「ううん」とうなって、息を吹き返したっけど。そして、
「お前(め)のおかげで助かった。何か礼をしたいから、私の家まで連れて行ってたもれ」
と、しゃべったど。
仁助は、娘の手を引いて、家に連れて行ったど。
玄関に入ったば、家の中がひっくり帰るような大騒(おおさわ)ぎになったど。みんな、ムジナが化けて来たのだべ、と思ったのだと。
そこで、娘が、
「私はムジナでない。ほら、生まれた時からついてる、このアザを見てたもれ」
と、のどもとを見せて、
「この仁助さんが助けてくれたのだ」
と、しゃべったど。そしたば、親たちも納得(なっとく)して、
「ああ、ありがてえ、ありがてえ」
と、仁助に何回も何回も頭を下げて、奥の座敷に連れて行って、あげ膳(ぜん)すえ膳でもてなしたっけど。そして旦那(おど)さまが、
「お前には、嫁コがあるか」
と聞いたど。
仁助はかくかくしかじか、と、これまでのことをみんな正直(しょうじき)に知らせたど。
したば旦那さまは、
「そうせば、神さまがお前と娘を一緒(ひとつ)にするように決めたのだから、何とか、娘を貰(もら)ってたもれ」
と、仁助に頼(たの)んだっけど。
仁助は喜んで承諾(へんじ)したど。
そして、そのうち、ええ日を選んで式をあげ、仁助はそこの番頭(ばんとう)になって、夫婦仲良く暮らしたっけど。
どんとはねた。
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むかし、むかし、あるところに爺さんと婆さんとが暮らしてあった。爺さんは毎日山の畑のウネ打ちに行っておったと。ある日のこと、爺さんが畑のウネを打っていたら、畑の縁(へり)にあった石に猿(さる)が腰掛(こしか)けて、爺さんの悪口言うたと。
「江戸の空洞柳」のみんなの声
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