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ごもんのはなし
『五文の話』

― 秋田県男鹿市戸賀 ―
語り 井上 瑤
話者 三浦 さくら
採集・再話 今村 泰子

 むかし、あるところに話の好きな婆(ばんば)さまいたと。

 あるとき、
 「飽(あ)きるまで話聞かせてける人、いねぇべか。聞かへた者さ五文くれてやる」
て、いったと。
 ある人、婆の家さ行って、
 「飽きるまで話聞かへるども、必ず五文呉(け)るのか」
て、いうわけだ。

 「ああ、呉る。早く聞かへれよ」
 「ンだか、へば、聞かへる」
とて、


 「そろり、そろりと、あきしない。窓(まど)から顔(つら)など伸(の)べしない」
 こういって、何遍(なんべん)も繰(く)り返すわけだ。
 婆、
 「それからよ」
て、言っても、また、
 「そろり、そろりと、あきしない。窓から顔など伸べしない」
て、一晩(ひとばん)繰り返すわけだ。
 五文の話挿絵:福本隆男

 
とうとう婆、
 「ああ、飽(あ)きた、飽きた。もう戻(もど)ってけれ、戻ってけれ」
て、いったば、
 「婆、約束(やくそく)だ、五文けれ」
 「ああ、呉てやる、呉てやる」
とて、五文呉てやったと。

 婆、
 「何と高けぇ話だ。金かかった話だもんだ」
と、思って、
 「そろり、そろりと、あきしない」
て、ぶつぶつ一人でしゃべっていたと。
 そこさ、盗人(ぬすっと)はいってきたと。したら、
 「そろり、そろりと、あきしない」
て聞こえるわけだ。

 
「なんと婆、まだ起きてたか」
て、耳立てると、
 「窓から顔(つら)など伸べしない」
て、聞こえてきたわけだ。したら盗人、
 「おや、わかってしまったか」
とて、逃(に)げて行ってしまったと。
 
 とっぴん ぱらりのぷう。

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