― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
話者 浅利 徳二
再話 今村 泰子
整理・加筆 六渡 邦昭
昔、あったずおん。
またぎ、白犬(しろえんこ)連れで山さ行ったど。えんこてば犬のこんだ。ずっと山奥(やまおく)さ入(ひゃ)って行ったども、なんも獲物(えもの)無(ね)ぐて、山の中で暗ぐなってしまったど。仕方(しかた)無く、帰ろうとしたば、灯(あかし)コ、ポウッと見えできたので、そごさ、一晩(ひとばん)泊(と)めて呉(け)れと頼(たの)んだば、きれいだ(な)姉コ居で、
「どうぞ泊まって呉れ」
て、云(い)ったのでシャ、白犬と一緒に寝だど。
次の朝なったきゃ、その家の赤(あか)ゃ犬、またぎの白い犬さ喧嘩(けんか)しかけて、とうど殺(ころ)してしまだど。
またぎ、どでんしたども、仕方無く家さ戻ったど。
したども、またぎだば犬居ねば困(こま)るもんで、久保田(くぼた)さ、犬見つけに行ったど。
街(まち)歩いてだば、大した大(お)っき当才馬(とうさいうま)コ位(ぐりや)のむく犬、見つけたわけだ。
「むく、むく」
て、後(あと)ついて行(え)ったば、ある大きお寺の中さ入って行ってしまったずもな(というものな)。
またぎ、寺の中さ入って、
「むく、むく」
て、叫(さか)んだば、大き和尚(おしょう)さん出て来て、
「むくだば、おれだ」
て、云ったど。
またぎ、魂消(たまげ)て、山の中で犬殺されで困った事話したば、和尚さん、
「あの犬負(ま)かす犬だば、化物(ばけもの)だべ。おれ、一緒(いっしょ)に行って見る」
どて、その和尚さん、むく犬なって、山の中さ行ったど。したば、やっぱり灯コ見えて、犬吠(ほ)えたど。
「むく、むく、来い」
て、云って、むくのとこさ、またぎ行ったば、
「やっぱし化物だ。あの犬だば、ひひのひゃんがり(くせもの)で、姉コは猫(ねこ)の化物だ。
ひひのひゃんがり噛(か)み殺すのだば、わけ無えども、姉コの山猫(やまねこ)だば容易(ようい)で無がら、お前油断(ゆだん)すなヨ」
て、云って、その晩(ばん)げ泊まったど。
次の朝間なったきゃ、また、赤ゃ犬、むくさかかって来たきゃ、むく、赤ゃ犬に化けたひひのひゃんがりを噛み殺してしまだど。
姉コ、ごしゃあ(おこって)で、本性(ほんしょう)出して大き猫になって、むく犬の喉頚(のどくび)さ喰(く)いつきに来たど。
挿絵:福本隆男
したども、またぎ、今度ぁ鉄砲(てっぽう)で撃(う)ち殺してしまだど。
したきゃ(そしたら)、家だど思ってた所(どこ)、なんと岩の洞(ほら)であって、なんも無かったど。
とっぴんぱらりのぷう。
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むかし、越後の国、今の新潟県に源右ヱ門という侍がおったそうな。度胸はあるし、情けもあるしで、まことの豪傑といわれたお人であったと。あるときのこと、幽霊が墓場に出るという噂が源右ヱ門に聞こえた。
むかし、あったと。 あるとき、狼、のどさ骨(ほね)ひっかげて苦しんでいたけど。 「ああ、せつねゃ。たれか、この骨抜いで呉(け)だら、うんと良(え)え物呉(け)るぞ。ああ、だれか頼(たの)む。」 て、狼、ウン、ウンうなって、しゃべったど。
「またぎの犬」のみんなの声
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