― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
北秋田の山奥には、マタギというて、熊だの鹿だの獲(と)る猟師(りょうし)が、いまでも住んでおる。むかしは、何人かで組をつくっての、冬山に小屋掛けして、獲物(えもの)を追うたもんじゃ。
あるとき、六人のマタギと七人のマタギが山ひとつ越(こ)えたところに、別々に小屋を掛けて、泊まっておったそうじゃ。
雪の降る寒い晩じゃったが、七人マタギの小屋に一人の女ゴ(おなご)が訪ねて来た。みると女ゴは身重(みおも)での、たいそう苦しげにこうゆうたと。
「わしは、もうすぐ子が産まれるで、今夜一晩、ここさ泊めてはもらえんじゃろうか」
するとマタギの親方は、
「なんの、お産じゃて。そうでなくともマタギは女ゴを嫌(きら)うもんじゃ。お産に出会うて、猟(りょう)なんぞできるもんでねぇ。泊めるわけにはいかんわい」
そうゆうて、さっさと小屋の入口を閉めてしもうたと。
女ゴは悲しげな顔をしておったが、いつのまにやらいなくなってしもうた。
ところが、同じ晩、六人マタギの小屋にも、やっぱり女ゴが現れたんじゃ。
「もうすぐ子が産まれるで、どうか今夜一晩、ここさ泊めてはもらえんじゃろうか」
女ゴがあんまりせつなそうにゆうもんで、六人マタギの親方は、
「おうおう、この雪では難儀(なんぎ)じゃの。マタギは女ゴを嫌うのが掟(おきて)じゃが、そうもゆうてはおれん。さあさあ、中で休むがええ」
そうゆうて、女ゴを泊めてやることにしたそうじゃ。
夜も更けたころじゃった。
「スーッ、スーッ、スーッ」
不思議な物音でマタギたちが目をさますと、なんと女ゴが、次から次へと子を産んでおった。女ゴは子を産む度にみんな山の方へポンポンと投げ飛ばすんじゃった。
挿絵:福本隆男
マタギたちは、あんまり恐ろし気(げ)なもんで、声も出ん。ただブルブルふるえておったんじゃ。とうとう女ゴは十三人の子を産んで、マタギに向かってこうゆうたと。
「わしはこの山の女神じゃが、おかげで無事に子を産むことができた。明日の朝、向かい山の大木のウロを見るがええ」
そうゆうて、スーッと飛んで行ってしもうたそうじゃ。
翌朝になって、六人マタギが向かい山へ行ってみると、なんと大木のウロにみごとな大熊が三頭もねむっておった。マタギたちは、たいした苦労もせんで、その大熊を射(い)とめてな、山の神さまのお授(さず)けもんじゃゆうで、里へ降りて行ったそうじゃ。
女ゴを追い返した七人のマタギはのう、コダマ組とゆうたが、山の神さまの祟(たた)りでネズミになったそうじゃ。そのコダマネズミは、いまでも冬の山でチョロチョロはい回っているということじゃ。
とっぴん。
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むかし、津軽(つがる)のある村さ、そりゃあ、そりゃあ、ケチで欲(よく)たかりの金貸しがいたど。ケチもケチも、この金貸しゃあ情(なさ)け容赦(ようしゃ)なく銭(じぇん)コば取りたてるもんで・・・
「山の神とマタギ」のみんなの声
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