― 山梨県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
むかし、むかし。
あるところに大きな鳥があって、
「我(われ)こそが世界で一番大きい」
と、自慢(じまん)しておった。
ある日、この大鳥は、
「おれさまほどのもんが、世界の果てを知らんのは具合(ぐあい)が悪い」
というて、旅に出た。
幾日(いくにち)も幾日も空を飛(と)んでいくと、とうとう陸を離(はな)れて海に出た。広々としていい気持ちだ。ずっと向こうで、海と空とが溶(と)けあってひとつになっている。大鳥は、
「おお、あそこが世界の果てか。こりゃあもうじき着くぞ」
というて、バサー、バサーと羽ばたいた。が、どこまで飛んでも果てに着かない。さすがの大鳥も疲(つか)れてきた。どこかに休み場がないかと見まわすと、うまい具合に大っきな枯れ木(かれき)が二本、水からつん出て流れていた。
「やれ、助かった」
と、枯れ木に止まった。そしたら、枯れ木がグラグラゆれて、水の下から、
「やいやい、わしのヒゲに止まるやつは、どこのどいつだ」
と、怒(おこ)っているふうの声がした。大鳥は、
「おれは世界一の大鳥だ。世界の果てを見ようと旅をして、ちょいと一休(ひとやす)みしとるところじゃ。そういうお前こそ誰(だれ)だ」
と威張(いば)って言うた。そしたら、
「お前が止まっているのは、おれのヒゲだ。ヒゲにつかまっているくらいのもんが何で世界一か。おれこそ世界一の大エビだ」
というて、海の中から大きなエビがあらわれた。
大鳥は恥(は)ずかしくなって、ハタハタって羽ばたいて帰って行ったと。
今度は大エビが、
「あんなに小っこい鳥が世界の果てを見に行くんだから、おれさまほどのもんが世界の果てをしらんのは具合が悪い」
というて、旅に出た。
幾日も幾日も泳いでいくと、海の色が青黒く変わった。
「こりゃあ、世界の果てが近づいたかな。もうじき着くぞ」
というて、泳ぎに泳いだ。が、どこまで泳いでも果てに着かない。さすがの大エビも疲れてきた。どこかに休み場がないかと見まわすと、うまい具合に大っきな岩があった。
「やれ、助かった」
と、大っきな岩の洞穴(ほらあな)に潜(もぐ)った。
そしたら、穴の奥(おく)から生温(なまぬる)い風がビューと吹(ふ)いてきた。
吹き止まったと思うたら、こんどは冷たい風がピューと穴の奥に吸い込まれていった。変な洞穴だなと思うていたら、下から、
「やいやい、おれの鼻(はな)の穴に潜っとるのはどこのどいつだ」
と、怒っているふうの声がした。大エビは、
「おれは世界一の大エビだ。世界の果てを見ようと旅をして、ちょいと一休みしてるところだ。そういうお前こそ誰だ」
と威張って言うた。そしたら、
「お前が潜っているのは、おれの鼻の穴だ。鼻の穴に潜るくらいのもんが、何で世界一か。おれこそ世界一の大亀(おおがめ)だ。」
というて、海の中から大っきな亀があらわれた。大エビは落とされないように、穴のなかでそこいらにしがみついた。
大亀は鼻の中がむずがゆくてたまらない。
「ハックショーン」
と、大きなくしゃみをした。
大エビは、ビューンと陸(りく)まで吹っ飛ばされて、石に腰(こし)をうちつけてしもうた。 それで、今でもエビの腰は曲がったままなんだそうな。
いっちんさけぇ。
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むかし。山形のある村に、金蔵さんという、人は良いが、貧しい男がおったそうな。正月の十五日の晩のこと、一眠りして目を覚すと、急に便所へ行きたくなった…
「エビの腰が曲がった訳」のみんなの声
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