― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 武田 正
むかし、むかし、正直な爺(じ)んつぁと婆(ば)んちゃいだっけど。
ほうしてある時、畑さ稼(かせ)ぎに行くべと思ったれば、白い犬コ、はぁ捨(す)てらっで、ひんひん、ひんひんで、尻尾(しっぽ)、股(また)さはさんで泣いだんだけど。
「おお、可哀(かわい)そうだ、どれどれ、家さ行くべ」
て、連れて来だ。
「ほらほら、まずご飯食え、魚食え」
て。だんだえ、だんだえ大きくなっで、色もええぐなって、真っ白くなって、すばらしくええ犬になった。
ほしたれば、ある時ほの犬、爺んつぁと婆んちゃさ、
「おれ、捨て犬だったげんど、こだぇ一生懸命(いっしょうけんめい)かわいがられて大きくしてもらっだ。恩返(おんがえ)しに金掘(かねほ)り連れて行ぐ。カマスもつけろ クェン、クェン、クェン。唐鍬(とうぐわ)もつけろ クェン、クェン、クェン」というだ。
爺んつぁ、大八車(だいはちぐるま)さ、カマスも唐鍬も乗せて行ったれば、
ここ掘(ほ)れ ワンワン
ここ掘れ ワンワン
という。ほこ掘ってみたれば、銭(ぜに)と金ぁ、ざくざく、ざくざく出てきた。
ほいつ、家さ持って来たれば、隣(とな)りの爺んつぁと婆んちゃ、ほいつ見っだけ。
「なぜして、銭と金、お前(め)の家にそんなになった」
て聞いだ。
爺んつぁと婆んちゃ、正直なもんだから語ったて。そしたら、
「ほの犬、おら家さ貸(か)してけろ」
「いや、貸さんねっだな」
「いや、貸せ」
ていうて、びりびり持って行った。ほして、犬が、ここ掘れワンワンいわなかったら、自分から「ここらか」なて言うて掘り始めた。
ほしたれば、牛のビタ糞(ぐそ)なの、カワラなの瀬戸欠(せとか)けなのばりガチャガチャ出てきた。
ほしてはぁ、頭さきて、その犬殺(ころ)してしまった。
正直な爺んつぁ、なんぼ待ってでも犬帰してこないので、もらいうけに行ったれば、はぁ殺してしまったはぁて。
「ありゃぁ、殺してしまったなて、ほんでは仕方ない。亡骸(なきがら)ばりも呉(け)てけらっしゃい」
て。爺んつぁ、白の亡骸をもらって来て、ねんごろに葬(ほうむ)って、ほこさ一本の松の木植えだ。
ところが、ほの松の木たちまち太くなった。爺んつぁ
「ああ、こだえ太くなってはぁ、こりゃ臼(うす)でもこしゃえるにいいべなぁ」
て、ほの松の木きって臼こしゃえで、餅搗(もちつ)いてみたれば、ほの餅、むっくり、むっくりふくらんで来で、中から銭と金、またざくざくと出てきた。
はいつ(そいつ)、隙間(すきま)から隣の爺んつぁと婆んちゃ見っだけあぁ。
「ほの臼、おら家さ貸せ」
「いや、今度ぁ貸さね」
「だめだ、貸せ」
て、持って行ったけぁ、いきなり餅ふかして餅搗(もちつ)きはじめた。
ほしたれば、何と、やっぱりビタ糞などばりベッチャラ、ベッチャラ出てきた。
はぁ、餅も食えんねぐなってしまったはぁ。
ほしてはぁ、臼、いきなり斧(おの)でぶち割ってしまって、カマドさくべて、焚(た)いてしまった。
正直な爺んつぁ、なんぼ待っても臼返してこないので、もらいうけに行ったれば、
「ありゃ、ビタ糞なのばり出はっから、焚いてしまった」
て、はぁ。
「ありゃあ、焚いてしまったんでは仕方ない。ンでは灰(あぐ)ばりも呉(け)てけらっしゃい」
て言うて、灰持ってきた。
ほしたれば、風でほの灰ぁぴらぴらと飛(と)んで、掛かったどこさ、みな花咲いた。
「ありゃりゃ、不思議(ふしぎ)なこともあるもんだ」
丁度(ちょうど)そのとぎ、殿(との)さまがお通りになった。
正直な爺んつぁ、
「花咲かじじい、花っ咲かせてお目にかけます。花咲かじじい、花っ咲かせてお目にかけます。」
て、大声でどなった。灰(あぐ)をばらばらまいたれば、ほこらここら、みな花だらけになった。梅の花、桜の花、桃の花、きれいだもんだ。
殿さま、馬の上から
「あっぱれであるぞ。行き手に花咲かせてくれるとは、とても縁起(えんぎ)がええ。褒美(ほうび)をとらす」
て言わって、御褒美(ごほうび)いっぱいもらった。 ほいつ見っだ、隣の爺んつぁ、
「よし、あの灰なら、おら家にまだあんぞ」
て、いうわけで、灰でっすら(いっぱい)持って、ほの殿さまお帰りになったどき、
「花咲かじじい、花っ咲かせてお目にかけます。」
ていうて、風上(かざかみ)さ行って、ほの灰、おっぷらまわしたれば、殿さまから家来から、みな眼(まなぐ)さ入ってしまった。
「無礼者(ぶれいもの)、とりおさえろ」
ていうわけで、隣の悪い爺んつぁ、取り押さえらったけど。
んだから、悪いごどざぁするもんでないて、昔の人ぁ言うたもんだけど。
どんびんからりん すっからりん。
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むかし、あるところに旅商人の小間物売りがおったと。 小間物売りが山越(ご)えをしていたら、途(と)中で日が暮(く)れたと。 あたりは真っ暗闇(やみ)になって、行くもならず引き返すもならず途方に暮れていたら、森の奥(おく)に灯りが見えた。
「花咲爺」のみんなの声
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