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うぶめからちからをさずかったはなし
『産女から力をさずかった話』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志

 むかし。山形のある村に、金蔵さんという、人は良いが、貧しい男がおったそうな。
 正月の十五日の晩のこと、一眠りして目を覚すと、急に便所へ行きたくなった。
 「おー、さぶい、さぶい。こんなさぶい夜に便所へ行くのはいやじゃのう」
 ぶつぶつ言いながら、便所の戸を開けると、中から、スルスルーッと白い手が出てきた。金蔵さんはびっくり仰天、たまげたが、
 「そうか、これが噂に聞く、産女(うぶめ)という幽霊か」
と、気を取り直した。
 産女というのは、お産のときに亡くなった女の人の幽霊のことだ。山形では、正月十五日の夜に、便所の中からでてくると言い伝えている。

 
  便所の中からはざんばら髪の痩(や)せた若い女が、子供を抱いてあらわれた。
 やはり産女だった。女は、
 「しばらくの間、この子を抱いていてくだされ」
というた。
 金蔵さんは産女に逆らっちゃいかん、と思うて、
 「よし、分かった。抱いていてやろう、こっちへよこせ」
というて、子供を軽く抱き上げた。
 可愛らしい男の赤んぼうでにこにこ笑っている。
 顔を上げると、産女はもうそこには居なかった。

 「おー、いい子だ、いい子だ。よ-し、よし、よし」
 金蔵さんは子供をあやしていた。そのときふと気が付いた。子供がさっきより重たくなっている。子供の姿、形は変わらない。きっと気のせいだろうと思うていたが、少しすると、前よりさらに重たくなっている。その子供は、だんだんだんだん重たくなってゆくのだ。


 そのうちに、つけもの石ほどの重さになった。ズシリと重い。手がしびれる。金蔵さんの額からは、脂汗がたれる。大きな鉛の玉をかかえているようだ。目の前がかすむ。もう、だめだ、と思うたとたん、急に子供は軽くなった。
 産女が金蔵さんの前に、スッと現われた。子供を受け取った産女は、
 「お前さまは、この子供をこわがらない勇気のある人です。ほうびに、お金か、力か、望みのものをさずけましょう」
 というた。金蔵さんが、
 「わしは、金よりも、仕事をする力がほしい」
と答えると、産女はスウーッと消えてしもうた。金蔵さんは、何が何だか、さっぱりわからんかった。


 次の朝、金蔵さんは目を覚し、顔を洗った。
 「ゆうべ、産女が力をくれるというたが、本当かどうかためしてみよう」
と、顔をふいた手ぬぐいをかーるくしぼると、手ぬぐいは二つにちぎれてしもうた。
 「よーし、今度はあれだ」
 庭へ出た金蔵さん、大きな庭石をらくらくと持ち上げた。水の入った風呂桶も、スイッと持ちあがる。

 「わしには、本当に力がさずかったんじゃ」
 金蔵さんは、うれしくてたまらんかった。そして、金蔵さんは、産女からさずかった力で、一生懸命仕事をして、大金持ちになったそうな。
 山形では、正月十五日の夜、便所に産女が現われると言い伝えている。それでこの夜だけは特別に主人が便所をそうじし、そのあとその夜はだーれも便所に入らないようにしているんだと。
 どんぺすかんこねっけど。

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