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きつねのおんがえし
『狐の恩返し』

― 栃木県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あるところにおっ母(か)さんと息子(むすこ)とが暮(く)らしていた。おっ母さんは、なが患(わずら)いの病人(びょうにん)で、息子はまだまだ子供(こども)だったと。
 息子は家の仕事(しごと)やおっ母さんの看病(かんびょう)の合間(あいま)に他所(よそ)の家の手伝(てつだ)いをして、おっ母さんの薬代(くすりだい)を稼(かせ)いでいたと。
 
 ある日のこと、息子が薬を買(か)いに町へ行こうとして、途中(とちゅう)の原っぱにさしかかったら、木のうしろに隠(かく)れた狩人(かりゅうど)が、弓(ゆみ)に矢(や)をつがえ、何かをねらって、今にも射(い)ようとしていた。
 ねらいの先を目でたどったら、日向(ひなた)で狐(きつね)の母と仔(こ)が、のぉんびり昼寝(ひるね)をしていた。


 「ハックショーン」
 息子はおもいっきりクシャミをした。
 母狐と子狐がびっくりしてとび起(お)き、狩人の矢もそれた。
 母狐は狩人と息子を見ると、子狐ともども逃(に)げて行った。
 矢を射そこなった狩人は、ぷんぷんに怒(おこ)って息子の所へ来て、
 「お前、わざと狐を逃がしたな」
と言って、つめよった。息子は、
 「こらえきれずに、つい、してしまいました。どうぞ勘弁(かんべん)して下さい」
とあやまったが、
 「うんにゃ、ならん。さあ狐を返(かえ)せ」
と、おっそろしいんだと。
 困(こま)った息子は、薬代にするお金をみんなやって、やっとゆるしてもらったと。 
 その晩(ばん)、息子がおっ母さんの看病をしていると、戸(と)がホトホト、ホトホト、と叩(たた)かれて、
 「こんばんは、こんばんは」
と、遠慮(えんりょ)がちな声がした。


 こんな夜更(よふ)けに誰(だれ)だろう、と戸を開けてみたら、戸口に見たことのない母親と男の子が立っていた。
 「だれ、なんの用(よう)」
と聞くと、その母親が、
 「私たちは、昼間(ひるま)あなたに助(たす)けていただいた狐の親子です」
と言う。 
 息子は思いがけないなりゆきに、目をまんまるにして、
 「本当(ほんとう)に?」
と聞くと、
 「はい。今日は危(あぶ)ないところを本当にありがとうございました。これ、お礼(れい)にと思って持(も)って来ました」
と言って、布包(ぬのづつ)みを手渡(てわた)した。ズシリと重(おも)い。不思議(ふしぎ)に思って、包みを開けてみた。分限者(ぶげんしゃ)が持つような立派(りっぱ)な財布(さいふ)で、中には小判(こばん)がいっぱい入っていた。


 「本物ですよ。だいぶん前に、誰かが落(お)として行ったままになってあったのを、私が見つけて、今日までしまっておいたものです。お母さんの薬代にして下さい」
と言う。  
 息子は、ついさっきまでおっ母さんの看病をしながら、明日からの薬をどうしようと考(かんが)えあぐねていたところだったので、その財布を胸(むね)にだいて、深々(ふかぶか)とおじぎをした。涙(なみだ)をポトポト落としたと。
 頭をあげたら、狐の親子がジャレあいながら嬉(うれ)しそうに帰(かえ)って行くうしろ姿(すがた)が見えた。
 
 息子は、狐がくれたお金で、おっ母さんを医者(いしゃ)に見せ、よい薬を買ってのませることが出来たと。

 おしまい。

「狐の恩返し」のみんなの声

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楽しい

僕としては、そのまま狐と仲良くなる展開が欲しい。 そういう偶然で得た縁というのは、それっきりにするのは惜しい。( 20代 / 男性 )

悲しい

母狐が健気。 恩返しが(狐にとって)割に合わない気がする……。( 20代 / 女性 )

感動

子どものために食べ物を調達する母キツネの気持ちが痛いほど伝わり、感動しました。( 40代 / 女性 )

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感動

いいお話ですね。他の恩返しの話も聞きたくなりました!( 10代 / 女性 )

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