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さるかにひとりぽっち
『猿蟹ひとりぽっち』

― 島根県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔があったげな。ある山に猿(さる)がポツンとひとりでおったげな。海っ端(ぱた)にはカ二がポツンとひとりぽっちでおったげな。
 ある日猿はあんまりつまらなくって、海っ端に行って見ようと思って、山を下りて来たげな。
 そしたら、ちょうどいい格好(かっこう)の松の木があったので、それに登って枝に腰(こし)かけたげな。
 遠くはどこまでも広々しとるし、近くは波が岩に当ってアワが飛んどるし、いい気持じゃけえ、
 「海っ端いうものはええもんだ。風はブ-ブ-吹くなり、波はドンドと打つなり」
といったげな。
 そしたら、下で、 「ふ-ん」
といって、応(こた)えるものがある。


 誰だろうと思って下をのぞいてみたけれど誰もおらんげな。
 「おかしいなあ、そら耳かなあ」
と、首をかしげて、また、
 「海っ端いうものはええもんだ。風はブ-ブ-吹くなり、波はドンドと打つなり」
といったげな。
 そしたら、また、下で、
 「ふ-ん」
といって、応えて来た。
 また下をのぞいて見たけれど、やっぱり誰もおらんげな。
 「おかしいなあ。たしかに返事がしたんだがなあ」
 猿は松の木から下りて、あっちうろうろ、こっちうろうろ探してみたら、石積(いしづ)みしてあるところがあった。


 上の石をちょこっと起こしてみたら、カ二が一匹おったげな。
 「はあ、おったぞ。こら、カ二カニ、返事したのはお前か」
と聞いたが、カニは何も言わずに石の間に逃げ込もうとしたげな。
 「なんだい、わしのことに返事なんぞして欲しくないわい」
 いうて、他の石を打ち下ろしてカニを潰(つぶ)してしもうたげな。
 
 それから猿は、また、松の木に登って、さっきと同じように周囲(まわり)を見まわして、
 「海っ端いうものはええもんだ。風はブ-ブ-吹くなり、波はドンドと打つなり」
というたら、今度は、誰も返事するものは無(な)かったげな。
 耳をすましたら、風と波の音だけが聞えて来たげな。
 「何だかつまらんなあ」 猿は松の木から下りて、石の下で潰れたカニを団子(だんご)にして、
 「カニ、カニ、お前もひとりぽっちだったげな、すまねがった」
というて、元いた石の間に置いたげな。


 それから、また、松の枝に腰を下ろして、
 「海っ端いうものはええもんだ。風はブ-ブ-吹くなり、波はドンドと打つなり」
と言うたら、何と、
 「ふ-ん」
と、団子になったカニが返事したげな。
 
 猿はええ気持がして、何度も何度もそうくり返しておったげな。晩方になって
 「やっぱり返事するものがなきゃあいけんなあ。明日(あした)も来るけん、また、返事してごせえよ」
 いいおいて帰ったげな。

 そえで こっぽし。

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