どの立場でも、おっかない!でも、色々考える事のできるお話をありがとうございます( 40代 / 女性 )
― 埼玉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、むかし。
あるところに家があって、ネズミが巣を作って暮(く)らしていたと。
ある冬の日、一匹のネズミが縁の下を駈(か)けまわっていたら、突然足元の土が崩(くず)れて、つんのめって穴に落ちたと。
「痛ててぇ」
といいながら穴を見まわしたら、穴は奥へ続いてる。
挿絵:福本隆男
「なんの穴だろ」
ネズミが不思議に思うて穴をたどって行ったら、突き当りが広間(ひろま)になっていて、そこに柔(やわ)らかいものが沢山(たくさん)あった。噛(か)じってみたらウナギみたいにうまかった。腹一杯(はらいっぱい)食うても食いきれんほどある。みんなを呼びに行ったと。
ネズミたちはそれを噛じって、一冬(ひとふゆ)の間(あいだ)食う物に困らなかったと。
やがて春になって、その食い物が目を覚ました。動こうとしたがどうもおかしい。目ん玉動かして見たら、頭から下の体がなくなっていた。あっちにもこっちにも頭だけのがいっぱいいて、とまどうやら、びっくりするやらして、長い舌をシュウ、シュウとだしたりひっこめたりしていた。
その食い物とは、蛇だったと。
その穴は、蛇たちの冬ごもりの穴だったと。
頭だけになった蛇の目の前をネズミが走って、蛇は、ようやく冬眠中(とうみんちゅう)に身体(からだ)が無くなった理由(わけ)が判ったと。
「俺の身体を食うたのは、お前(め)だな」
というて、パクッとネズミを呑(の)みこんだ。
呑みこまれたネズミはすぐに喉(のど)の下から吐き出されて、逃げて行ってしまったと。蛇は、
「おのれ」
と怒ったが、追いかけることも出来ん。くやしがったと。
ネズミに噛じられなかった蛇もいて、それが隣(となり)の蛇仲間(へびなかま)へ応援を頼(たの)みに行った。
「冬眠から目ざめたら、ネズミたちに噛じられていて、みんな頭だけになっとった。仇(かたき)をとってほしい」
「それは気の毒だった。よしわかった。にっくいネズミたちめ、皆(みな)呑み込んでしまえ」
隣りの蛇仲間たちがたくさんやって来て、片っ端(かたっぱし)からネズミを呑み込み、仇討ちだと。
ネズミたちが困って、みなして相談したと。
このままでは、ネズミが絶えてしまう。何か、ええ思案はないか」
「蛇はくねくねと動くから、蛇行(だこう)の逆へ逃げればいい」
蛇が右へくねったらネズミは左へ跳び、左へくねったら右へ跳べ、ということになって、そのようにしたら大成功。ネズミは一匹も呑まれなくなったと。
挿絵:福本隆男
やれ一安心(ひとあんしん)と思うていたら、ネズミたちに、別のもっと恐ろしい心配ごとが出来た。
チュウ、チュウ大騒(おおさわ)ぎをしたせいで、この家の人が、なんと、猫(ねこ)を飼いはじめたんだと。
ネズミは一匹、また一匹と猫に捕(つか)まっていった。
ネズミたちは、また集まって相談したと。
「猫につかまらんようにするいい思案はないか」
「あいつは暗くても目が見えるからなあ」
「暗闇(くらやみ)で黄金色(こがねいろ)に光るあいつの目を、遠くに見つけただけで、俺なんか金しばりになってしまうくらいだ。
今まで仲間が捕まったのは、猫の奴には俺たちがどこにいるのか判るのに、俺たちには猫の奴がどこにひそんでいるのか判らないからだ」
「いっくら気をつけていても、奴は気配もたてないんだ」
「いきなり襲(おそ)ってくるんだもんなあ」
「猫がどこに居るのかわかれば一番いいのだがなぁ」
「そういうことなら、ええことがある。猫の首に鈴をつければええ」
「ンだな」
「それがええ」
と、みんなが賛成(さんせい)したと。年長(ねんちょう)のネズミが、
「ところでじゃ、猫の首に鈴をつけに誰(だれ)が行くかじゃがの」
というたら、みんな黙(だま)りこくって下を向いたままだ。
だあれも鈴をつけに行く者はなかったと。
挿絵:福本隆男
それで、今でもネズミは蛇がくねる逆には逃げられるけど、猫にはやられっぱなしなんだと。
おしまい チャンチャン。
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「ネズミと蛇と猫」のみんなの声
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