― 埼玉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、ある山の中に爺と婆が住んでおったと。
爺と婆は、山の畑で豆だの大根だの野菜を作り、それを町へ売りに行って暮らしておったと。
あるとき、爺が、大根をショイコにくくりつけ、それを背負って山道を下っていると、ふもと近くの道脇から、
「逃がすな」
「ほら、そっちへ行った」
「こんどは、そっちだ。つかまえろ」
「このお」
「それぇ」
と、子供たちの騒ぎ立てる声にまじって、獣(けもの)のキーキーという鳴き声が聞こえて来た。
何事かと、その方へ行ってみると、一匹の子猿をとりまいて子供たちがいじめているところだったと。
近間(ちかま)の木の上では、母猿が木の枝にぶらさがって、枝をゆらして、不安そうに泣きわめいている。
「かわいそうに、母猿が泣きよるじゃないか。乱ぼうすんなや。そうじゃ、そん猿を俺に売っちぇくれ」
爺が大根売りの釣り銭用にもっていた小銭を子供たちに渡すと、子供たちは、
「行こ」
「行こ」
と言うて、くもの子を散らすように山をかけ下りて行ったと。
「おお、こんなにおびえて、よしよし、もう大丈夫だぞ、さあ、早よう母さんのところへ行け」
爺が、そっと子猿をはなしてやると、子猿は母猿のいる木にするすると登っていった。そして母猿にすがりついて、親子でキ―キ―鳴いたと。
爺がその様(さま)を見ていると、母猿と子猿は、爺の方を振り返り振り返り森の中に姿を消したと。爺は、
「えがった、えがった」
というて、町へ大根を売りに行ったと。
次の日の朝、家の戸をトントン、トントンと叩く者があった。爺が、
「誰かいな、入ってこいや」
というて、声をかけると、土間に入って来たのは昨日の母猿であったと。そして、
「爺、昨日は子猿を助けてもろうちぇ、ありがとうござんした。これから猿の仲間んところへ案内して、ごちそうをし申すから、ぜひに一緒に来てくれ申さんか」
というのだと。 爺は、
「これは、これは、わざわざおおきになぁ。そいじゃ、遠慮なく呼ばれるとしようか」
というて、母猿のあとからついて行ったと。
山の中を、いくがいくがいくと、間もなく、木々の枝々に、たくさんの猿たちが止まっているところに出たと。
その猿たちが皆々(みなみな)木から下りて来て、爺にお礼を言うたと。
猿たちは、爺を上座(かみざ)に坐らせると、柿だの梨だの、栗だの、猿酒(さるざけ)だの、次から次へとごちそうを出して、もてなしたと。
爺はいい気持ちで酔(よ)っぱらい、唄まで歌って楽しんだと。 「今日のもてなし、ありがたかった」
いうて、さて、帰ろうとすると、母猿が、
「爺、これを土産にあげ申すから、家に帰ったら、大きな箱の中に入れて置き申せ」
と、穴の開いた一文銭を小枝に差してくれたと。
家に戻った爺が、猿からもらった一文銭を婆に見せると、婆は、
「昔から、猿の一文銭いうて、大(たい)したごりやくがあると話にゃ聞いてはおるがのう、はて爺さんや、どんなごりやくがあるんじゃろ」といいながら、大きな箱を持って来たと。
爺と婆は、猿の一文銭をその箱にしまってその晩は寝たと。
そしたら、その夜、一晩じゅう、箱の中で
ちゃりんくゎらん、ちゃりんくゎらん
ぐわっさん ぐわっさん
と箱が鳴ったと。
次の朝、爺と婆が箱を開けてみると、なんと、一文銭が何百、何千、山もりにふえておったと。
「はあ、猿の一文銭とはこういうものであったか」
といいあって、驚ろくやら喜ぶやら。
爺と婆は、猿の一文銭のおかげで、一生安楽にくらしたと。
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むかし、大分県の野津市というところに、吉四六という知恵者の男がおった。あるとき、吉四六さんが臼杵の街を通りかかると、魚屋の店先に、十個ばかりのさざえがあるのが目にとまった。
昔、豊後(ぶんご)の国、今の大分県大野郡野津市に、吉四六(きっちょむ)さんという面白い男がおった。頓智働(とんちばたら)きでは、誰一人かなう者がないほどだったと。
「猿の一文銭」のみんなの声
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