吉四六さんの話はおもしろいから好きです( 10代 / 女性 )
― 大分県臼杵市 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
昔、豊後(ぶんご)の国、今の大分県臼杵市(おおいたけんうすきし)野津町(のつまち)大字野津市(おおあざのついち)というところに、吉四六(きっちょむ)さんという頓智(とんち)にたけた面白い男がおった。
挿絵:福本隆男
ある日吉四六さんは、村一番のつむじ曲がりの爺(じい)さんのところへ出向いたと。
「爺さんや、明日っからおれとアマノジャク競(くら)べをせんかや」
「ほう、そりゃ面白そうじゃのう。へじゃが、お前(めえ)がいかに頓智者だちいうても、わしに勝てるかや。わしゃ子供ん時からのアマノジャクじゃき、年季(ねんき)が入ぇっちょるぞ」
爺さんは、他人(ひと)が右と言えば左、上といえば下と答えて、何でもかんでも反対を唱えなければ気のすまん性質(たち)で、村の人をたびたび困らせておったと。
次の日、爺さんは川へ魚釣(つ)りに行った。
「お、また釣れた。ホーホー」
ビクからこぼれるほど釣って、さて帰ろうとしていたら、そこへ吉四六さんがやって来た。
「やぁ爺さん、魚釣りかや」
「う……」
爺さん、うん、とは言わない。言ったら沽券(こけん)にかかわる。
挿絵:福本隆男
「うんにゃ。なに、魚を捨てちょるんじゃ」
ち言うち、ビクから魚を二、三匹つまんで川へ放り捨てたと。
ニヤッと笑った吉四六さん。
「ほう、そりゃまことな。そんなら俺(おれ)が拾うちょこ」
ち言うち、爺さんのうらめしそうな顔を尻目(しりめ)に、魚をみんな持って行ってしまった。
「こりゃ意地でも吉四六にゃあ負けられん。わしも同じ手で仕返しをしちゃろ」
爺さん、手ぐすねひいて機会(きかい)を待っていたら、あるとき吉四六さんが田圃(たんぼ)で稲刈りをしておった。
「やあ、吉四六、稲刈りかや」
「う……」
吉四六さん、うん、とは言わない。言ったら負けになる。
「いや、そうじゃねぇ、稲捨てだ」
「ほうか、ほうか、捨てちょるんか。そんなら拾うて行くか。
挿絵:福本隆男
うまくいったとほくそ笑んだ爺さんは、吉四六さんの刈り取った稲を、どんどこ、どんどこ運んでいったと。
ところが吉四六さん、少しもあわてない。
嬉しそうな顔をして、後からついて行った。
そして、家に着いた爺さんが稲をきれいに束(たば)ね終えるのを待って、声をかけた。
「爺さん、稲拾い行ったのかや」
「うんにゃ、稲刈りに行って来たんじゃ」
「借りたもんなら返しちくりぃ」
吉四六さん、らくらく稲束を取り返してしまったと。
爺さん、すっかりしょげてしまって、それからは、吉四六さんの前ではアマノジャクを言わなくなったそうな。
もしもし米ん団子(だんご) 早よう食わな冷ゆるど。
吉四六さんの話はおもしろいから好きです( 10代 / 女性 )
昔、あったど。あるところに雪女がいであったど。 雪女ァ、旅の人ばだまして、殺していだだど。 ある冬の日。 ひとりの男が旅をしていて、沼のあたりまで来たけァ、日が暮(く)れてしまったと。
「吉四六さんの意地くらべ」のみんなの声
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