― 新潟県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、あるところに二人の商人(あきんど)がおったと。
二人は連れだって旅商(たびあきな)いに出た。
行くが行くが行くと、とある浜辺に着いた。一人が、
「足もくたびれたし、日和(ひよ)りもいいし、どうだ、ここいらでひと休みしょうか」
というと、早や、ぐうぐう鼾(いびき)をかいて寝てしまったと。
連れの男が寝そびれて何気なくその男の顔をみていると、その男の鼻の穴から一匹のアブがモザラモザラ出て来て、ブーンとどこかへ飛んで行き、しばらくして、さっきのアブが戻って来て、また寝ている男の鼻の穴の中に潜(もぐ)って行った。
「ありゃぁ、妙なこともあるもんだ」
と思うて、肩をゆすってやると、男は目をさまして、
「おれは今、奇妙(きみょう)な夢を見た」
という。
「どんげな夢だったかや」
「あんのし、佐渡が島に豪儀(ごうぎ)な分限者(ぶげんしゃ)があらしってのし、その家の庭に白い花のいっぱい咲いた椿(つばき)の木があって、その根っこから一匹のアブがたって、"福のある者(もん)は来てここを掘れ"っちゅう夢だ」
「掘ったか」
「いや、掘ろうとしたら目が覚めた」
「ふーん。俺(お)らにその夢売ってくんないか」
「ほっ、夢を買うってか。いくらでだ」
「三百文でどうだい」
と、夢を売り買いする話がまとまったと。
旅商いが終わってから、夢を買った男は佐渡が島へ渡った。
あちらこちらを捜(さが)しまわって、ようやく分限者の家を捜し当て、都合良く庭掃きに雇(やと)われることになったと。
やがて春になって庭の椿の木に花がいっぱい咲いた。が、赤い花ばっかり咲いて、白い花は一つも咲かないのだと。そうして夏が来たと。秋・冬と過ぎて、ようやくまた春になった。
男が毎日毎日、白い椿の花は咲いていないかと気をつけてみていたら、ある朝、一本の椿の木に白い花が咲いていた。
「おお、おらが買うたアブのお告げは、まさしくこの木に違いない」
と、わくわくして、その夜、誰にも見られないようにして、その椿の木の根元を掘ったと。
そしたら、カメが出て来た。カメのフタを開けてみたら、目もくらむような黄金(こがね)がいっぱい詰まっておった。
「おらに福があったぁ」
いうて、喜んで喜んで、福が逃げないようにそのカメをどこかに隠したと。
それから半年も経ったころ、男はお暇願い(ひまねがい)をした。
「そうか、お前は長い間よう働いてくれた。ここで得たものを大切にして、国へ帰ってもまめで暮らせ」
いうて、分限者は気持ちよう給金(きゅうきん)をくれたと。
男は分限者に厚く礼をいうて、隠してあった金ガメを荷物のようにこしらえて国へ帰ったと。
男は金ガメの黄金を元手にごうぎな商いをして、大層な長者どんになったそうな。
いちごさかえた、鍋の下ガリガリ。
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むかしは染物(そめもの)をする店を普通(ふつう)は紺屋(こうや)と呼んだがの、このあたりでは紺屋(くや)と呼んどった。紺屋どんは遠い四国の徳(とく)島からくる藍玉(あいだま)で染物をするのですがの、そのやり方は、藍甕(がめ)に木綿(もめん)のかせ糸を漬(つ)けては引きあげ、キューとしぼってはバタバタとほぐしてやる。
「佐渡の白椿」のみんなの声
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