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しょうがつふつかのゆめ
『正月二日の夢』

― 新潟県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに一人の正直な男があって、山の畑で黒豆を丹精(たんせい)こめて作っておった。
 ある年の正月二日の初夢(はつゆめ)に神様が現れ、
 「お前は、まめまめしくよう働くから、金瓶(かながめ)を授(さず)けてやる。この山の向こうの村に、身上(しんしょう)持ちの旦那(だんな)がいるが、そこの庭の梅の木の下に金瓶が埋(う)まってある。お前にそれを授けよう」
と言われた。

 男は喜んで、山を越(こ)えて向こうの村へ行った。 

 
 村に着いたときには、もう日暮(ひぐ)れだったと。身上持ちの家を訪ねて、そこの旦那に、
 「初夢で神様のお告げだから、この家の庭の梅の木の根本を掘らせてもらえんじゃろか。もし金瓶があればお前様と半分づつにしようねか」
と、持ちかけた。すると旦那は、
 「今日はもう暗いから、明日の朝、掘ればいいねか。今晩はここさ泊まってけ」
というた。 

 男が眠ったら、旦那は、
 「あの男はあんなことを言うが、金瓶が本当にあるか、掘ってみよう」
と、夜中に、こっそり梅の木の根元を掘った。しかし何も出てこなかったと。


 朝になって男が起きたら、旦那が、
 「いや、まことに恥(は)ずかしい話だが、金瓶が本当にあるか気になっての、夜中に掘ってみた。あっ、いや、そうじゃねぇ。あったらちゃんとお前と分けるつもりだったすけぇ。したら、カチンと音がしたから金瓶かな、と思うたら、何かしらんが穴から黒いモンがヒューって山の方へ飛んでいったけが。そのあとも掘ってみたけど、何にも出てこなかった。」
と詫(わ)びた。男は、
 「そらっか。やっぱし夢はただの夢だったかぁ。お騒(さわ)がせしてぇすまなかったス」
といい、旦那にお宿のお礼を言って帰ったと。 
 
 いくがいくがいって、山のてっぺんを越えたら、黒い衣(ころも)をまとった爺(じ)さまが一人、岩に腰(こし)かけて休んでいた。男が、
 「どっちへ行きなさる」
ときくと、爺さまは男の行く方向を指差(ゆびさ)した。


 「おらと同じ方だな。山の陽(ひ)はあっという間に暮れてしまう。山径(やまみち)は危ねえから、今晩は俺(お)ら家(え)さ泊まるとええ」
というて、一緒に行ったと。道々(みちみち)に、爺さまが、
 「お前はどこへ行ってきたや」
と訊(き)くので、男は、
 「俺ら、初夢で神様のお告げを聞いて、神様のいわれた家さ行ってきた。だけど何も無(ね)ぇかった。けど、俺ら、それでよかった。また今までどおり働けということだと思うから」
というた。爺さまはにこうと笑(え)みを浮かべて聞いていた。 
 家に着いたのはすっかり暗くなってからだったと。
 男は大急ぎで粥(かゆ)をこさえて爺さまと食べ、囲炉裏(いろり)に大火(おおび)を焚(た)いて家の内(なか)を温(ぬく)めてから爺さまに寝てもらったと。


 次の朝、男が爺さまを起こそうとしたら爺さまがいなかった。布団をまくってみたら、大きな金瓶があったと。金瓶の中には大判・小判がぎっしりつまっていた。
 「金瓶が爺さまになって俺らのとこへ来てくれたのか。初夢は正夢(まさゆめ)だったか」
 男は、そのお金で畑を買い足し、人もやとって、黒豆をたくさん植えた。
 男の畑で採(と)れた黒豆は、粒揃(つぶぞろ)いの上に美味(おい)しいとの評判(ひょうばん)が立って、売れに売れた。
 正直な男は、のちのち人々から「黒豆長者(くろまめちょうじゃ)」と呼ばれるようになったそうな。
 正月に黒豆を食べるのは、黒豆長者にあやかって、健康でまめまめ働いて、分限者(ぶげんしゃ)になれるように、との願いが込められているからなんだと。

 いきがさけた、鍋(なべ)の下ガリガリ。

「正月二日の夢」のみんなの声

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