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おしょうをおどす
『和尚を威す』

― 長崎県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔あったと。
 ある山寺に、和尚(おしょう)さんと小僧(こぞう)さんとが二人で暮(く)らしてあったと。
 和尚さんは毎晩(ばん)おそうなってから小僧さんに雑炊(ぞうすい)を炊(た)かせて食べておったと。
 朝早うに起きる小僧さんは、毎日眠(ねむ)くてしょうがない。

 ある日、小僧さんは、何とか、和尚さんが夜おそうに雑炊を食べなくなる良い工夫はないものかと思案したと。
 考えたあげく、いい思案が浮(うか)んだと。


 その夜おそうに、和尚さんがいつものように、
 「小僧、雑炊を炊け」
というので、
 「はい、ただいまつくります」
と、こたえて、正油をたっぷりきかせて塩っ辛(しおっから)く炊いたと。小僧さん、
 「和尚さん、今夜はきっとのどが乾(かわ)くに違(ちが)いないぞ」
と、ほくそ笑んで、その上、水瓶(みずがめ)の水も、薬缶(やかん)の水も空にして伏(ふ)せて置いたと。

 そうしてから、小僧さん、白い着物を着て井戸(いど)の中へ下りてかがんでおったと。
 和尚さん、塩っ辛い雑炊を食べてしばらくしたら、のどが乾いてたまらんようになった。水を飲もうとしたけれど、薬缶にも水瓶にも水が無い。
 「小僧、小僧、水を持って来い」
と、いうけれども、小僧さんの返事がない。
 和尚さん、自分で井戸端(いどばた)に来て釣り桶(つりおけ)をゴトン、ゴトンさせて水を汲(く)もうとしたと。


 そしたら、井戸の中から、
 「夜、夜中にゴトン、ゴトンさせるのは何者か」
と、とがめる声がした。

 びっくりした和尚さんが、おそるおそる井戸の中を覗(のぞ)くと、白い着物を着た人影(ひとかげ)が水に映(うつ)って、ゆらゆらゆれている。
 腰(こし)を抜(ぬ)かすほど驚(おどろ)いた和尚さん、おろおろしながら、
 「は、はい、私はこの寺の和尚であります。のどが乾いてしょうがないので、どうぞ今夜だけ水を飲ませてください」
といったと。 
 すると、また、井戸の中から、
 「わしは、この井戸の中の水神じゃによって、よる夜中には水は一滴(いってき)もやらんが、どうしても欲(ほ)しけりゃ、これからは雑炊のぞっとも言わんじゃったら飲ましてやる」
と声がしたので、
 「もうこれからは、決して雑炊は食べません。どうぞ今晩(こんばん)だけは堪忍(かんにん)して下さい」
と、約束したと。


 「ならばよし。今晩だけだぞよ」
と、いうので、和尚さん、あわてて水をもらって飲んだと。
 あくる日、小僧さんは知らんふりして、
 「和尚さん、和尚さん、今夜も雑炊を炊きましょうか」
と、たずねたら、和尚さんは、 
 「いや、もう雑炊にはこりごりした。これからは雑炊はいらんから、雑炊のぞの字も言うてくれるな」
と、いうたと。
 そりばっかし。

「和尚を威す」のみんなの声

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