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つばめのしかえし
『ツバメの仕返し』

― 長野県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところにケチで欲深(よくふか)な婆(ば)ぁが住(す)んでおったと。

 ある暖(あたた)かい春の日のこと、婆ぁが縁側(えんがわ)でコックリ、コックリしていると、頭(あたま)の上で、チッ、チッと鳥の啼(な)き声がした。

 うるさいなあ、と思うて上を見ると、軒端(のきば)で、二羽(にわ)の夫婦(ふうふ)らしいツバメがひっきりなしに、口にドロとワラを咥(くわ)えて来ては、せっせと巣(す)を作っておったと。


 ツバメが巣を作ると縁起(えんぎ)がいい言うて大事(だいじ)にするのだが、ケチな婆ぁは、
 「わしの家の軒端を汚(よご)して、とんでもねえツバメだ。よし、見てろ」
と言うて、物干(ものほ)しの竹竿(たけざお)をかついで来て、仕上(しあ)がり間近(まぢか)なその巣をガキガキとつっ突(つ)いてすっかり落(お)としてしもうた。

 夫婦らしいツバメは、チイチイと悲(かな)しい声を残(のこ)してどこかへ飛んで行ったと。

 何日か経(た)って、婆ぁが座敷(ざしき)で縫(ぬ)い物をしていると、どこからともなく、この間の二羽のツバメがスイッと家の中へ飛び込(こ)んで来て、ポトン、ポトンと、口にくわえていたものを畳(たたみ)の上に落として行ったと。
婆ぁが、
 「何じゃろ」
と拾(ひろ)うてみると、それは夕顔(ゆうがお)の種(たね)だったと。


 「ふん、この間、軒端を汚したお詫(わ)びかな」
言うて、庭(にわ)さきの土の中へ埋(う)めたと。

 やがて芽(め)を出した夕顔は、葉(は)をひろげ、茎(くき)をぐんぐん伸(の)ばし、まっ白い花をつけた。
 そして、夏のおしまい頃(ごろ)に、長い長いみごとな夕顔が何本も垂(た)れ下がったと。

 「これはすごい。見たこともない大きさだ」
言うて、婆ぁは大喜(おおよろこ)びだと。
 干瓢(かんぴょう)にしようとて、長い夕顔をまな板(いた)に乗せて、スパッと輪切(わぎ)りにした。そのとたん、
 「ギャー」
ゆうて、婆ぁは悲鳴(ひめい)をあげてひっくり返(かえ)った。


 なんと、切った夕顔の中から、尻尾(しっぽ)を切られてまっ赤になった小さな蛇(へび)が、グニョグニョと数え切れないほど這(は)い出て来たと。
 「アワワワ、アワワワ」
ゆうとった婆ぁが、欲にかられて気をとりなおし、他の夕顔を切ってみたと。
 切る夕顔のどれもこれもから蛇がグニョグニョと出てきたと。
 婆ぁは、見事な夕顔だったたけに惜(お)しいやら悔しいやら、顔をひきつらせて、カマスにまっ赤な小さい蛇をかき入れて、遠(とお)くのヤブの中へ投(な)げ捨(す)てたと。

 捨てられた蛇たちは、カマス食い破(やぶ)り、ヤブの中で、たちまち大きくなったと。何万匹(なんまんびき)もだと。


 大きくなった尾っぽの無(な)い、まっ赤な蛇たちは、ある日、いっせいに鎌首(かまくび)をもちあげて、群(むれ)をなして婆ぁの家を目指(めざ)して動きはじめ、あっという間に婆ぁの家を押(お)しつぶしてしもうたと。
 蛇の群は、そのあと、峠(とうげ)をくねって、どこかへ姿(すがた)を消(け)したと。
 ケチで欲深の婆ぁは、その日から気が狂(くる)うてしまったと。

  それっきり。

「ツバメの仕返し」のみんなの声

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