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おおかみとうさぎ
『狼と兎』

― 京都府 ―
語り 平辻 朝子
再話 大島 廣志
再々話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに狼(おおかみ)と兎(うさぎ)がおったと。
 ある日のこと、狼と兎が山道でバッタリ出会うた。狼は兎がびっくりしているのを見て、いいことを思いついた。
 「兎どん、川向(む)こうの原っぱに遊(あそ)びに行かんか」
 「おらは水が苦手(にがて)だから川は渡(わた)れん。こっちの原っぱで遊ぶから、狼どんだけ行ってくれ」
 「なあに、橋(はし)を渡ればいいさ。さ、行こ」
 「んでも・・・・・・」
 「んでもなんだ。あ、そうか、おれと行くのが嫌(いや)なんだ」


 兎はしかたなく狼について行った。行くが行くが行くと、川には橋がない。狼は、
 「よっし、ここはおれが何とかしよう」
と言うて、どこからか木をかついできて、向こう岸(ぎし)に渡した。

 「これでよし。兎どん、橋架(か)けたから、お前先に渡れ。おれ、おさえとくから」
 兎は<狼どんは、あんがい優しいんだな>と思うて、橋を渡りはじめた。
 そろり、そろり歩いて半(なか)ばまで渡ったら、ボスッと橋が折(お)れた。兎は川の流れにドボンと落ち、トンプカ、トンプカ川下(かわしも)へ流れて行った。狼は、
 「やあい、ざまあみろ。腐(くさ)れ木に乗れば折れるわい」
と、あざ笑って帰って行った。
 次の朝、狼がガーガーいびきをかいて寝ていると、外から、
 「狼どん、狼どん」
と呼ぶ声がした。狼は、
 「こんな朝っぱらから、いったい誰だ」
言うて出てみると、兎が立っておった。狼はいっぺんに目が覚めた。


 「ウ、兎どん。お前、川に流れて行ったんじゃあないのか」
 兎はニコニコしながら、
 「ああ、そうだ。狼どんが川へ落としてくれたおかげで、おらは、いっぺえ楽しいことがあった」
と言うた。
 「楽しいことって、何だ」
 「川から流されてな、海に行ったわけだ。そしたら竜宮(りゅうぐう)へ案内されてな、竜宮の乙姫(おとひめ)さんから、いっぺえご馳走(ちそう)になった。腹がパンパンにふくれると、今度ぁ魚たちの踊(おど)りだ。これが美しいのなんの。まあ、極楽(ごくらく)だったなあ。まだまだあるぞ。帰りにはお土産(みやげ)をいっぺえ貰(もろ)うて来た。ほんによいところだった、竜宮は」

 
 兎がこう言うと、狼は口から涎(よだれ)を垂(た)らして、聴(き)いていたが、
 「兎どん、おれも、その竜宮へ行ってみたいなあ」
と言うた。それで、狼と兎は連れだって、また、川へ行ったと。川に着くと兎が、
 「そのまま川へ入ると濡(ぬ)れるから、この麻袋(あさぶくろ)ン中に入るといい。そうすれば竜宮へ行っても、ちっとも濡れんですむから」
と言うた。
 狼は、川岸で麻袋に入ると、兎に川へ蹴落としてくれと言うた。狼は袋詰(ふくろづ)めになってトンプカ、トンプカ川下へ流れて行った。それを見た兎は、
 「やあい、ざまあみろ、麻袋は破(やぶ)れんぞ」
と、大声であざ笑ってやったと。
 ン、狼か、袋の口が閉(と)じられているもんな、出られんじゃろうな。

  これでむかしのたねくさり。

「狼と兎」のみんなの声

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驚き

まあ残酷な気はしますが、他人に危害を加えるような騙し方をしたら自分に同じことが返ってくるということですね。( 20代 / 男性 )

怖い

こわい!( 20代 / 女性 )

悲しい

どっちもわりぃ!( 10代 / 女性 )

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怖い

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