民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 河童が登場する昔話
  3. 河童から力をもらった男

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

がわっぱからちからをもらったおとこ
『河童から力をもらった男』

― 熊本県天草 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 天草(あまくさ)の話ばい。
 むかし、ある若者が富岡(とみおか)の殿(との)さんが城を築(きづ)くちゅうので、人夫(にんぷ)に使ってもらいたいと出かけて行ったと。
 ところが、その男は体が小さかったもので、
 「こぎゃん小さか男に用はなか」
 ちゅうて、追い返されてしもたと。
 若者はがっかりして家に帰る途中、川べりの道まで来ると、河童(がわっぱ)が出てきて、
 「なんで泣いとる」
ときいたと。

 
 若者が、これこれこういうわけだというと、
 「それならば、お前の願いをかなえてやるから、おらの願いをひとつきいてくれ」
というた。
 「河童の願いとは何だ」
ときいてみると、
 「おらの家の中に、恐(おそ)ろしい八つ目の化けもんが棲(す)んでるもんで、夜もろくろく眠れない。それを退治(たいじ)してくだはり」
という。
 「なるほど、して、お前の家とはどこだ」
ときくと、
 「この道の下の淵(ふち)だ」
というので、若者は淵の中へ飛び込んだと。探し探し水の底を泳いでいたら、馬鍬(まぐわ)がひとつ沈(しず)んでいた。八本の鉄の歯が光るので、河童には恐ろしい化けもんに見えたのだったと。
 若者が、それを持って水からあがると、河童はひどくよろこんで、
 「今夜、家へ帰ったら力試しをしてみなはい。力持ちになっとるばい」
というたと。

 
 若者は半信半疑(はんしんはんぎ)で家へ帰ったと。ひと眠りしてから起き、飯をうんと食べて、庭の大っきい石を試しにかついでみると、かるがると持ち上がったと。
 そこで若者は、この大っきい石をひっかついだまま、地響(じひび)きをたてて歩いて、富岡の工事場(こうじば)へ行った。
 殿さんに、もう一度、
 「おれを人夫に使ってくだはり」
と頼んだと。
 殿さんはたまげて、
 「よし、使うちゃる」
というて、たいそう便利(べんり)に使ったと。
 「それ、その石のけろ」
 「それ、この木を運べ」
 それ、それ、と、なんでもかんでもこの若者にいいつけたと。

 
 ところが、さて城が出来あがってみると、殿さんはこの若者が恐ろしゅうなったと。
 「こぎゃん力持ちは生かしておいたら危ない。殺した方がよい」
と、下来(けらい)たちに命(めい)じて、大きな穴を掘(ほ)らしたと。
 そこへ若者を突き落とし、上から石を落したと。
 ところが、若者はどんな大きな石でもポイポイと投げかえしてくる。
 殿さんはこまって、今度は砂を流し込んだと。
 これにはさすがの若者も力の出しようがない。砂に埋(う)まって、とうとう死んでしまったと。

   むごか話じゃ。

「河童から力をもらった男」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

悲しい

新しいエンディングをつけよう。 「河童はその男を生き返らせて、新しい殿様にその男がなった。その男は、ちゃんと人を人として最後まで尊重する男であり、ちゃんと人がさきわい合う地域になりましたとさ。」みたいな。 そうしようよ。( 30代 )

驚き

縁があって富岡の事は知っており、確かに立派な城趾があることも知っていましたが、まさかこんな話が伝えられているとは驚きです。小高い山の上に建つお城なので、河童から力を貰ったこの男は、お殿様にとってはとても便利だったことでしょう。それにしても、築城のために力を尽くした男が最後には殺されてしまうとは、お話の語り手も言っていたように、なんとも可哀想な話です。その後に男を供養した等々の後談もないので、少し物寂しいですね。( 10代 / 男性 )

悲しい

かわいそ。( 10代 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

柳の美男(やなぎのびなん)

昔、盛岡の木伏に美しい娘があったと。毎日家の前の北上川へ出て、勢よく伸びた柳の木の下で洗濯物をしていた。あるとき、その娘がいつものとうり洗濯に出たまま行方がわからなくなったと。

この昔話を聴く

炭焼き長者(すみやきちょうじゃ)

 むかし、ある山里に、ひとりの貧(まず)しい炭焼きの若者が住んでおったそうな。  なかなかの働き者で、朝から晩(ばん)まで真っ黒になって炭を焼いておったと。

この昔話を聴く

熊になった兄弟(くまになったきょうだい)

むがすむがす、あるどこに太郎と次郎がいであったど。ふたりとも怠け者(なまけもの)で、さっぱり稼(かせ)がね。親が残してくれたものを、あれを売り、これ…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!