民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 世間話にまつわる昔話
  3. 五寸釘

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

ごすんくぎ
『五寸釘』

― 熊本県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 この話は女子(おなご)と子供には聞かせたくないのじゃが、ことのなりゆきで・・・ま、たまにゃ、いいかの。
 昔、あるところに一人息子がおった。十八、九になったが、口数は少のうて、温和(おとな)しいかぎり。父さんも母さんも、
 「一人息子で可愛がり過ぎたのかねぇ。嫁御(よめご)貰(もら)う気もおこらんようだし。困ったもんね」
 「うーん。ずうたいばかり大きくてもまんだ子供なのかなぁ」
といいあっていたと。

 
 ある朝、父さんが便所に行ったら、横の柱の、ちょうど腰ぐらいのところに五寸釘が一本打ち込んであったと。父さん、母さんに、
 「あの釘はなんだ」
と聞いたら、
 「あら、父さんが打ち込んだものとばかり思うとった。違うんですか」
 「わしゃ知らん。すんなら息子が打ち込んだんだな」
 「でも、何の為に打ったんでしょう」
 「つかまる為でもなさそうだ」
 父さん母さん、何に使うかその場で見届けてやろうと思うて待っていたが、息子は親のいるときは便所へ行こうとせん。


 それで息子に聞いてみたと。
 「息子や、便所の柱のな、五寸釘打ったのは、お前だろ。あの釘な、なんに使うか、母さんには教えとらんが、父さん、気がついている。なんちゅうだらしないことか。元気盛(ざか)りのお前が、五寸釘に品物を乗せて小便するなんて、あまりにもなさけないぞ。父さんが若い頃は、そんな不調法(ぶちょうほう)はせんじゃったぞ」
 そしたら、息子は頭をかいて、
 「いや、その、違うんだ、父さん。その逆だ。俺のは、その・・・品物が毎朝あんまり勢いよう上を向いて、天井に小便かかるから、そのう、自分の手じゃ押し下げきれん。それであの釘の下に差し込み、押さえにしとる」
というた。そしたら父さん、
 「う、うーん、そうありたいもんじゃ」
と、こういうたと。

 そりばっかりのばくりゅうどん。 

「五寸釘」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

感動

これが民話になって残る平和さよ( 40代 / 男性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

大歳の火(おおどしのひ)

 昔、ある分限者(ぶげんしゃ)の家で沢山の女中を使っていた。その中に主人のお気に入りの娘(むすめ)が一人いたと。明るくて、まめまめ、よう働く娘(こ)であったと。

この昔話を聴く

雀経文(すずめきょうもん)

昔あるお寺に、おおまかな和尚さんと小坊主が住んでおったと。あるとき、檀家(だんか)から、「和尚さん、法事をしたいので、お経をあげに来ておくれ」言うて、頼みに来たと。

この昔話を聴く

鯖売りと山ん婆(さばうりとやまんば)

昔、あったてんがの。あるところに鯖売(さばう)りがいた。あるとき、鯖売りは魚籠(さかなかご)に鯖(さば)を入れて、山里(やまざと)へ売りに行ったと。

この昔話を聴く

現在886話掲載中!