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くじらむかし
『鯨むかし』

― 高知県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかしの大昔。
 鯨(くじら)は山に棲(す)んでおったと。
 大きな体で動きまわるたびに木がバキバキ倒(たお)され、草がすりつぶされる。たくさん食(く)うので山の動物が減ってきた。
 このありさまにほとほと困った山の神様が、山の頂天(てっぺん)から海の神様に呼びかけたと。
 「おおい、海の神よう。わしんとこの鯨をそっちで預(あず)かってくれんかのう」
 「よかろう」
ということになって、鯨は海に引越(ひっこし)したと。

 
 海は広いし、魚はいるし、おもいっきり動いて、腹(はら)いっぱい魚を食って、鯨は大満足(だいまんぞく)だ。
 海の神様はそんな鯨を見ても、
 「わしんとこは広いから、山の神が心配したようなことにはならんじゃろ」
というて、のんきにしとった。

 ところが、月日(つきひ)が経(た)つうちに海の魚の数がずいぶん減(へ)ってきた。海の神様は、
 「このままだと、いつか魚がおらんようになりそうだ」
と、さすがに心配になりだした。
  さて、どうしたもんかと思案(しあん)のすえ、ある日、鯨に、
 「これ鯨よ、お前を山の神から預かってからというもの、魚の姿がめっぽう減った。お前が何でもかんでも食うからじゃ。これからは一尺(いっしゃく)以上の魚を食うたらいかんぞよ」
と、言いつけた。


 鯨が下がると、海の神様は小判鮫(こばんざめ)を呼び、
 「これ、小判鮫よ。お前は鯨が一尺以上の魚を食いはせんか、よく見張れ。もし、食うたら鯱(しゃち)に伝(つ)げよ」
といいつけた。
 海の神様は、次に鯱を呼び、
 「これ鯱よ、小判鮫がお前のところへきて、『鯨が一尺以上の魚を食うた』と報(し)らせたらお前が鯨をこらしめよ」
といいつけた。
 鯨は海の神様の言いつけじゃあしょうがない。一尺以上の魚が大きな口の中に入らないように、早速(さっそく)、歯を櫛(くし)のように作りかえたと。大きな魚は、この櫛歯(くしば)にひっかかって呑(の)みこまなくなったと。


 小判鮫は鯨の体につかまったまま見張れるように、吸盤(きゅうばん)をとりつけ、鯱は自分の何十倍もある鯨を殺(ころ)す為(ため)に鋭(するど)い歯に作り替(か)えたと。

 昔々にこんなことがあってから、今でも鯨は鯱を恐(おそ)れて大きな魚を呑み込まんようにしているんだそうな。
 
 むかしまっこう。
 

「鯨むかし」のみんなの声

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