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くびなしぎょうれつ
『首なし行列』

― 福井県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、越前(えちぜん)の国、今の福井県の福井のご城下(じょうか)を、ひとりの婆(ばあ)やが提灯(ちょうちん)を下(さ)げて、とぼとぼと歩いておったと。
 婆やはむかし奉公(ほうこう)していたお侍(さむらい)の家に、久し振りにご機嫌(きげん)うかがいに出た帰りであった。
 月のない晩で、人っ子ひとり通っていない。
 婆やが九十九橋(つくもばし)のあたりにさしかかったとき、橋の上にぼおっとひとつ、青白い松明(たいまつ)のようなものが灯(とも)った。と思う間なしに、その火は二つ、三つ、四つ、五つと数を増して、とうとう橋いっぱいの青白い火となった。
 動かない火もあり、あわただしく駆(か)けまわる火もある。 

 
 婆やはびっくりして、たちどまったまま、その様(さま)をじいっとくいいるように見ておったと。
 すると突然、その火が消えて、周囲(あたり)は元の闇(やみ)になった。その暗闇の中を、音もなく行列が進んで来た。
 白い鎧(よろい)をつけ、白い弓(ゆみ)を持ち、丈高(たけだか)いのは馬上(ばじょう)の武者(むしゃ)だと。皆々白装束(しろしょうぞく)をつけ、白いのぼりをなびかせて、しゅくしゅくと進んでくる。
 
 ただ、その人たちには首がない。乗っている馬にも首がない。
 首なし行列が、婆やの方へ音も無く進んで来るのだと。
 それを見て、やっと婆やは気がついた。気がついてから、水を浴びせられたように、ぞうっとした。今夜は四月二十四日、 天正(てんしょう)十一年(一五八三年)のこの日、柴田勝家が守る北(きた)の庄(しょう)の城を羽柴秀吉軍が攻めた。城は炎につつまれ、家来たちは次々と敵に討たれ、残った者は腹を割(か)っ切って死んでいった。もはやこれまでと、勝家も切腹(せっぷく)して果てた。


 勝家と秀吉は織田信長門下の仲間であった。よほど口惜(くちお)しかったのか、それ以来、毎年(まいとし)四月二十四日の夜更けになると、亡霊(ぼうれい)たちが墓から立ちあがって、首のない行列を組んで動き出すようになった。
 
 この行列を見ても決して他人に見たと言ってはならない。もし見たといったら血を吐いて死ぬといわれていた。
 また、むかしのこよみの四月二十四日というたら月は出ない。それなのにこの夜、福井のお城の鳩(はと)のご門の枡形(ますがた)に月が映るという。ご門からご門までの石垣に囲(かこ)まれた四角い広場を枡形というのだが、そこの土の上に月が映るのだそうだな。見たものは死ぬという。

 四月二十四日のこの晩は、そういう日であった。
 この地で生まれ育った婆やは、この日の恐ろしさをよく知っていたのに、とくやんだがもう遅い。どの家もはやばやと戸を閉めきって息を殺している。


 婆やは、がたがたと震(ふる)えながら、提灯の火を吹き消した。このまま、うしろを向いて逃げだせば首なし行列に追われる。脇へ逃げたくとも横道はない。だとしたら、この行列を見んように、見られんようにやり過すしか仕方ない。
 
 婆やは、道に背を向け、よその家の軒下(のきした)にかがみこんで、しっかり目をつぶったと。
 音がしないはずなのに、婆やの耳にはヒタヒタという足音、カッポカッポという馬の足音、鎧(よろい)のすれあう音がはっきりと聞こえた。

 足音はしだいに近づいて、やがて、うしろを通り過ぎて行く。息の詰(つ)まる長い時間であったと。
 ようやく、気配(けはい)がなくなった。
 婆やは暗闇を這うようにして家に帰ったと。帰ると何も言わずに布団(ふとん)をかぶって寝たと。

 
 次の朝、あまりに母親の顔色が悪いので、息子が、どうしたのかとたずねた。
 はじめは婆やは黙(だま)っていた。
 しかし、息子があまりに心配するので、とうとう言ってしまったと。
 言ってしまってから、もう死ぬ、と覚悟(かくご)をしたが、婆やは死ななかった。
 家じゅうが胸をなでおろし、神様仏様に手を合わせたと。 しかし、次の年の四月二十四日、婆やはふらりと家を出たまま、二度と帰って来なかったと。

 こんでそろけん。

「首なし行列」のみんなの声

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驚き

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怖い

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