民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 頓知のきく人にまつわる昔話
  3. 屋根ふき作戦

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

やねふきさくせん
『屋根ふき作戦』

― 高知県 ―
語り 井上 瑤
再話 市原 麟一郎
整理・加筆 六渡 邦昭

 とんとむかし。高知県土佐の幡多(はた)の中村に泰作(たいさく)さんというて、そりゃひょうきんな男がおったそうな。
 人をだますのが好きで、人をかついじゃ面白(おもしろ)がりよったと。

 ある日のことじゃった。
 泰作さんは屋根にあがって、ひとりで屋根ふきをしょった。
 ほいたらそこへ、近所の若い衆(し)らが二、三人で通りかかったちゅうが。
 「ありゃ、泰作さんよ、おまんそりゃ逆ぶきじゃがな」
 「ホウ、そうかよ。わしゃ、ちっとも知らざったよ。そんならためしに、やってみてくれんか」
 泰作さんはこういうて、若い衆らを屋根の上に呼(よ)び上げたと。


 みんなはあがってくると、
 「屋根は、こうやって、ふくもんぜよ」
と、言いながら、せっせこ、せっせこ、ふきはじめたと。

 すると、それを見すました泰作さんは、トコトコ下へおりて、台所へ入っていったそうな。そうして、台所から一升(いっしょう)どっくりを探(さが)し出して来ると、みんなが見よる前で、ていねいに洗いはじめたと。
 洗いおわると、一升どっくりを目の前にかかげながら屋根ふきをしよる若い衆らに、
 「おまんら、まあ休み休みやりよってくれや。わしゃ、ちょっこり使いに出てくるけんのう」
 こういうちょいて、小走りに出ていったと。


 「へへへ、泰作さん、酒を買いに走ったぞ」
 「『どうもご苦労さん、ちくと一杯』というつもりじゃろ」
 「ほんならまあ、晩(ばん)を楽しみに、精だして屋根をふくか」
 若い衆らは、いよいよ、せっせこ、せっせこ屋根ふきをしよった。

 ところがなんぼ待っても、いっこう泰作さんは戻(もど)ってこん。もう大方(おおかた)屋根ふきが終わったという時分(じぶん)に、ひょっこり戻って来たと。
 若い衆らは、やれ、酒が飲める、と泰作さんを見ると、どうじゃろうのう、酒屋に行っていたはずの泰作さんは、とっくりを持っちょらん。手ぶらだ。


 「泰作さん、おまん、酒はどこな」
 「おお、酒な。酒はこんつぎ呑(の)ませるけん、まあ今晩は帰ってゆっくり休んでくれや。おまんら、今日はえらい世話になったのう。いや、ご苦労さん、ご苦労さん」
とすましちょる。
 泰作さんは、酒屋には行くには行ったけんど、カラになったとっくりを返しに行ったがじゃ。
 泰作さんの屋根ふき作戦(さくせん)に、見事にひっかかった若い衆らは、
 「またやられた」
という顔して、スゴスゴ帰って行ったそうな。
 
 むかしまっこう 猿まっこう。

「屋根ふき作戦」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

一番に感想を投稿してみませんか?

民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。

「感想を投稿する!」ボタンをクリックして

さっそく投稿してみましょう!

こんなおはなしも聴いてみませんか?

栗拾い(くりひろい)

昔、あるところに、母親を亡くした娘があったと。やがて、ひとつ年下の女の子を連れた継母が迎えられたと。継母(ままはは)は、日が過ぎるにしたがって、継子…

この昔話を聴く

一人参宮(ひとりさんぐう)

昔、昔。あるところに分限者(ぶげんしゃ)の家があって吉之助(きちのすけ)ていう人いてあったすと。小さいときは体弱くて、少し風吹けば風邪(かぜ)ひくし…

この昔話を聴く

正月神様(しょうがつかみさま)

むかし、あるところに爺さと婆さがおって正月神様がおかえりになる日に雨がドシャドシャ降ったと。爺さと婆さがお茶をのみながら、「この雨はやみそうにもない…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!