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のがわのようぞうとしかのけがわ
『野川の要三と鹿の毛皮』

― 高知県安芸郡 ―
語り 井上 瑤
再話 市原 麟一郎

 高知県安芸郡北川村(こうちけんあきぐんきたがわむら)の野川に、要三(ようぞう)といって、とっぽーこきの面白い男がいた。明治の頃に生きて、かずかずのとっぽー話をふりまいて今に語り継がれている。
 とっぽー話というのは、ほら吹き話のことでこれもそのひとつ。
 
 要三さんが、ある日、山へ狩猟(かり)に行って一匹の鹿を撃(う)ちとった。要三さん悦(えつ)にいって、急いでその鹿の毛皮をはぎとったつが。
 ところが、腰の方から首まではいだときに鹿が急に生き還(かえ)って逃げ出した。
 撃ちとったつもりのものが、急所をはずれちょったもんじゃけに、皮をはがされて痛かったんじゃろか。


 その逃げ足の早いのなんの。
 「そりゃ、そりゃなかろ、待て、待て」
 いうたって、そういう間もあるもんか。すぐに、どこへ行ったやらわからんようになったつが。
 「惜(お)しいことをしたもんじゃ」
と悔やんだが、おいつくもんか。
 それからその年は、よう山へ狩猟にも行かんずくじゃったと。
 
 あくる年のことよ。
 そんなことも忘れて、あいも変わらず、毎日山へ狩猟に行きよったと。
 ある日のこと、要三さん、ケモノ径(みち)で弁当を食いよったところが、ガバガバ、ガバガバいうて来るもんがあるつが。
 今までお化けちゅうもんにゃ、まだ出おうたことはないが、今日こそ、こりゃお化けやら知れんと思うて、弁当もほっぽり出して、急いで鉄砲のタマをこめたら、間ものうケモノ径へ、何やら飛び出て来たつが。
 のがすものか、要三さんがねらい撃ちよ。撃ち殺して近よってみると、何と去年撃って首まで皮をはいで逃がいちょったあの鹿よ。


 その去年の皮が、首のところでちょうどいい具合に干せちょったもんじゃきに、それが動くたびにガバガバゆうて鳴りよったもんよ。
 しかも、首から下の皮をはいだあとには、新しい皮が生えちょったつが。
 要三さんは、この一匹の鹿で、いっぺんに毛皮を二枚とったと。

  むかしまっこう さるまっこう。
  さるのつべは ぎんがりこ。

「野川の要三と鹿の毛皮」のみんなの声

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