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きたかぜちょうじゃ
『北風長者』

― 香川県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、大阪の鴻池(こうのいけ)の長者(ちょうじゃ)と、兵庫の漁師の蛸縄(たこなわ)とりとが、四国の金毘羅道中(こんぴらどうちゅう)で親しくなったと。
 あれこれ話をするうちに長者は蛸縄(たこなわ)とりにこう聞いた。
 「わしの所は屋敷(やしき)が狭うて、どうもむさくるしゅうてならんわい。あなたの所は坪はどれほどありますか」
 何坪あるかと屋敷の広さを聞いたのを、蛸縄とりは蛸壺(たこつぼ)のことかと勘違(かんちが)いをして、
 「へえ、壷(つぼ)なら、千(せん)ほど」
と答えたと。そしたら長者は、また、
 「ほお、そないに広いんな。わしの所は屋根は瓦葺(かわらぶ)きじゃが、お宅は」

と聞いた。蛸縄とりは、すまして、
 「胡麻(ごま)の柱(はしら)に萱(かや)の屋根(やね)、月星(つきほし)を眺める、といったところじゃろうか」
と答えたと。


 長者はいよいよ驚(おど)いて、
 「ほほう、五万本の柱とはえらいこっちゃ。それに、月や星を眺められるとは、またえらい風流(ふうりゅう)な造(つく)りでんなあ」
と感心しきりだと。 
 今度は蛸縄とりが、
 「わしん家にゃ、息子があるがのう、釣り合(お)うた嫁が無(の)うて、困っとる」
というと、長者は、
 「それほどの家柄(いえがら)なら、なかなか釣(つ)り合うた者はないやろ。幸い、うちには娘がある。では、わしの娘を嫁にもろうて下さいな」
と頼んだと。
 これには蛸縄とりもおどろいた。目をぱちくりしていたら、
 「あとで番頭を伺わせますよって、あなたの名前を教えて下され」
という。
 蛸縄とりは、こりやいかん、話がかけちごうとる、と思ったが、今さら、わしゃ貧しい漁師じゃ、ともいえん。口から出まかせに、
 「わしは、北風じゃ」
と答えたと。 

 
 こうして、二人は金毘羅まいりをすませて別れたと。
 鴻の池に戻った長者は、早速、
 「兵庫の、北風ちゅう網元を見て来てくれ」
と番頭に命じた。
 旅に出た番頭が兵庫の海の近くの町で出会った人に、
 「北風さんの所は知りまへんか」
と尋ねた。すると町の人は、北風の吹き荒れる漁師町のことかと思って、
 「北風のあるところは、漁師の道具なら一揃え干(ほ)してあるから、すぐにわかる」
と答えたと。
 番頭は町の者でもこういうくらいだから、よほどの網元だと思って、
 「これなら、わざわざ行くこともあるまい」
と鴻の池に帰って報告したと。 

 
 いよいよ嫁入りの日、
 長者の娘は、嫁入り道具を荷馬車(にばしゃ)に山ほど積んで北風の家に向かった。
 着いてみると、なるほど蛸壺は千ほど並べてあったが、北風の家は、胡麻粒(ごまつぶ)をとる胡麻の木の柱に、むしろを敷いただけのあばら屋で、草葺(くさぶ)きの屋根には穴が開(あ)いて、たしかに月星を眺めることの出来る家だったと。
 娘は悲しくなったが、
 「これも私の持って生まれたご縁でしょう」
といって、北風の家に嫁入りしたと。
 北風の家は、嫁の持って来た金を元手に大きな船を買い、船主(ふなぬし)になって漁(りょう)をしたと。 

 それからというもの、何もかにもうまくいって、ほんとうの大分限者(おおぶげんしゃ)になったと。

 そうじゃそうな、候(そうら)えばくばく。

「北風長者」のみんなの声

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楽しい

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