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へっぴりよめご
『屁っぴり嫁ご』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに男がひとりおって、嫁(よめ)を貰(もら)ったと。
 嫁ごはきりょうもよく、まめに働くので近所(きんじょ)のほめ者になっていたと。
 ところが、日が経(た)つにつれて嫁ごの顔色が青くなり、起居(たちい)もなんぎそうになっていった。
 心配した婿(むこ)どの、
 「近頃(ちかごろ)顔色も悪いし、つらそうに見えるがどうかしたか」
と聞いた。そしたら嫁ご、はらりと涙(なみだ)を落したが、うつむいているだけで何も言わない。困った婿どの、
 「夫婦の間で隠し事をするとは何事だ。言わないなら、今日限りこの家を出て行ってくれ」
と、脅(おど)かしてみたと。すると嫁ご、


 「言っても出される。言わなくても出されることなら致し方(いたしかた)ありません。どうぞ、お情けと思って聞かないで呉(く)ね」
と言って、さめざめと泣いたと。
 「あ、いや、なんだ、そのぉ、今のは俺が悪かった。たとえどんなことでも、言ってくれさえしたら許(ゆる)すから言え。いや、言ってくれ。俺は、そなたのこの頃の顔色がただごとでないから、それが心配(しんぱい)で聞くのだ」
 「すみません、それでは言いますが、必ず笑わないと約束して下さい」
 「わかった。約束する」
 「実は、私には屁(へ)を放(ひ)るくせがありますが、その屁を今日までこらえてきましたので苦しうて苦しうて、それで、ご覧(らん)のありさまとなりました」


 「なんだぁ。屁、だと。屁くらい出るにまかせればいい。放れ。早よ放れ。俺は聞いても聞かんふりしている」
 「放れと言われたのは嬉しいのですが、私の屁は並(なみ)の屁ではありません。鳴らしたらこの家の天井(てんじょう)が飛び抜けてしまうほどのもの。やすやすには鳴らせません」
 「なに、抜けたら修理(なお)せばいい」
 婿どのは嫁ごには替(か)えられないから、こう言うた。嫁ごは、今度は嬉(うれ)し泣きだと。
 「かほどまでさばけて下さるとはありがたい婿さまだ。この婿さまを吹き飛ばしてはバチが当る。ちょっとの間(ま)、辛抱(しんぼう)していて呉なされ」
と言って、大切な婿さまを大黒柱(だいこくばしら)にしばりつけたと。
 そうしてから、放った。一発どかんと。
 家の天井が飛び、勢(いきおい)あまって、大切な婿さままで大黒柱ごと、空の中さ吹き飛ばしてしまったと。


 嫁ごは我れながらびっくりして、
 「わが婿さまはどこだます。ほうい。
 わが婿さまはどこだや、ほほほうやい」
と追いかけたと。
 いくがいくがいっても、婿さまは見つからない。そのうち見たことのない山の中に入り込んでいた。
 向こうで、たくさんの小人たちが一本の木のまわりで騒いでいる。近寄(ちかよ)って、嫁ごが、
 「あんただち、何してる」
と聞いたら、小人たちは、
 「これは金の成る木と申すもので、あのとおり大判小判(おおばんこばん)がザングゴングと生(な)っているが枝が高くてとることが出きないで困っている。


 もしもこの木に手を触(ふ)れないで採(と)れたらみんなあげる」
と言ったと。嫁ごは、
 「それでは私が採って見せ申すべ」
と言って、尻を木に向け一発、どかんと鳴らした。その響(ひび)きと屁息(へいき)で大判小判はたちまち地べたに落ちてきて、あたり一面(いちめん)黄金(こがね)の山となったと。
 するとその上に何やらどしゃんと落ちて来たものがある。空に吹き飛ばされた婿さまだ。
 婿さまは、今やっとのことで、ここのこの場へ落ちてきたのだったと。
 「やれ、探していもした。おけがもなくて」
と、嫁ごが喜べば、婿さまもまた、
 「はて、探しに来てくれたのか。かたじけない。ところでこの大判小判の山はどうしたものだ」
と、目を見はっている。理由(わけ)を聞いた婿さま、
 「屁も一徳(いっとく)、何事でも上手になればこの上もない」
と言ったと。

 
屁っぴり嫁ご挿絵:福本隆男
 嫁ごの屁のおかげで、この婿どの、思わぬ分限者(ぶげんしゃ)となったと。

 どんとはらい。
 

「屁っぴり嫁ご」のみんなの声

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感動

屁をひることは誰にでもあることだが、みんな人前ですることを恥ずかしがる。 そのため、屁をしたくなっても我慢しなければならず、我慢してると変な音がなってしまうという悪循環。どうか、この話が広がり、恥ずかしがらずに屁をできる世の中になりますように。へっぴりこんでぶう

楽しい

一見危険な体質でも使い方によっては役に立つということですね。( 20代 / 男性 )

楽しい

子どもの頃読んで、あっけらかんとしたタイトルと女性が屋根の吹き飛ぶほどのおならをする、という強烈な物語が記憶に残っていました。嫁入り先に富をもたらしたことは覚えていませんでしたが(笑) お嫁さんも婿さんも、恥じらいと思いやりがあってほのぼのとしますね。 記憶にあるオチは、婿さんがお嫁さんのために屁っこき専用の小屋を建ててあげて、以来「へや」と呼ぶようになった、というものでした。どっとはらい( 40代 / 女性 )

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