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『ミソサザイ』

― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかしむかし、ミソサザイはこぼしやであったと。
 毎日毎日、藪(やぶ)から藪へと飛び移り飛び返り、ああこの藪もつまらない、あの藪もつまらない、とこぼしては舌打ち(したうち)してあくせくしているのだと。
 あるとき、鳥仲間が寄り集まって、たがいに御馳走(ごちそう)をしあおうという相談をしたと。そしてその御馳走の順番(じゅんばん)がこの鳥のところへ回って来た。鳥たちは、
 「どうもあのミソサザイじゃなあ」
 「ンだ。なりがこまか過ぎて、ろくな物ぁ出せまい」
と陰口(かげぐち)たたいて、今回ばかりは期待していないふうだ。 

 
ミソサザイ挿絵:福本隆男
 
 とうのミソサザイも、なんにも当(あ)てがないので、朝から晩まで、あっちの藪蔭(やぶかげ)、こっちの藪蔭と舌打ちしながらさがし回っていたと。 

 
 そうしているうちに、ある藪の中で大きな猪(いのしし)が昼寝(ひるね)をしているのを見つけたと。
 ミソサザイは、
 「こいつは見(め)っけモンだ」
と、すぐさま猪の大きな耳の穴に潜(もぐ)り込み、鋭(するど)い嘴(くちばし)で猪の脳天をコツコツ突っついたと。
 さあ猪はたまげた。何が何だか分からないまま、
 「頭が割れるう、助けてけろう」
と狂(くる)い叫(さけ)んで、どこまでも突っ走(つっぱし)り、あげくの果てに大きな岩に頭をぶっつけて死んでしまったと。 
 ミソサザイは誰よりも立派なご馳走をして、仲間を魂消(たまげ)させたと。


 その次の番は山の荒鷲(あらわし)の番であった。
 荒鷲は、あんなちっぽけなミソサザイでさえ大猪を捕ってみんなに振舞ったのだから、俺はもっとすごいものを捕って、仲間の奴等(やつら)をさすがと言わせてやりたいと思って、天気のよい日に空を舞い飛びながら下を見張っていたと。 
 すると、大きな鹿(しか)が二匹並んで日向(ひなた)ぼっこをしているのが見えた。
 荒鷲は、見ていろとばかりにさっと飛び下り、一度に二匹の鹿をつかんだと。
 二匹の鹿はびっくりして、跳り(おどり)上って右左に駈け出した。
 そのひょうしに荒鷲は生爪(なまづめ)をはがして大怪我(おおけが)をしたと。
 「欲(よく)する鷲は爪を抜(ぬ)かれる」という諺(ことわざ)は、これがおこりだと。
 それからのち、鳥仲間の寄り合いで、ミソサザイは何も捕れなかった荒鷲に代って、鳥の王様になったと。

 どんとはらい。

「ミソサザイ」のみんなの声

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驚き

こうして格好つけていると罰が当たるんだなと改めておもいました。( 10歳未満 / 男性 )

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