― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 小笠原 謙吉
整理・加筆 六渡 邦昭
むがすあったじもな。
あるどごに夫と女房があったど。
夫は、隣の女房が常日(つねひ)ごろ化粧ばかりしているので、ばかにいい女ごに見えただ。惚れだど。
家(うち)の女房は働くことばかりして身形(みなり)はかまわぬ。みだくなし女に見えた。褪(さ)めだど。
ある日、夫は女房に、
「お前はみだくなしだによって、ひまを呉(け)るはへ(ので)と、出て行け」 と言うた。
そこで家の女房はあきらめで、家を出はって行く気で、湯さ入り、お歯黒をつけだり、髪を結っだり化粧したらば、隣の女房よりも一段とよい女ごになっだ。
夫は目ぇぱちくりかえして、ひまを呉でやるのが急に惜しぐなっだど。
その女房、夫の前さ手をついで、
「私も今日までお世話になりまして、ありがとうござんした」
ど礼を述べて、
「それではお前さまも達者でいでくだされ」
どで、ひまをとり、台所(だいどころ)から土間(どま)の戸口(とぐち)さ行ぐと、夫が来で、その出口さ立ちふさがっだ。
「ここは俺(おれ)の戸口だがら、ここがら出るな」
と、とめる。女房は表口の玄関さ行って、そこから出べとしたら、夫がそこさも立ちふさがって、
「ここも俺の玄関だから、こごからも出るな」
ど言っだ。
そごで今度(こんだ)ぁ、座敷の縁側から出はべとすたれば、また、そごさもふさがって、
「こごも俺の縁側だから出るな」
ど、止めだど。
挿絵:福本隆男
女房、あぎれで、
「それでは出て行ぐ戸口はないがら、私に出て行くなてしか(ということか)」
ど聞ぐど、夫は、
「うん出て行ぐな」
言っだど。
女房は装(よそお)いをほぐしで、元のとおり家にいるごどになっだら、夫は、それからは隣の女房さ通わねぐなっだど。
どっとはらい。
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昔、あったど。あるところに雪女がいであったど。 雪女ァ、旅の人ばだまして、殺していだだど。 ある冬の日。 ひとりの男が旅をしていて、沼のあたりまで来たけァ、日が暮(く)れてしまったと。
「女房を出す戸口」のみんなの声
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