― 岩手県 ―
語り 井上 瑤
再話 大島 廣志
昔。ある町に、平六という貧しい男がすんでおった。この平六、たいへんな無精もので、ふんどしなどめったに洗わん。
同じふんどしを二年もしめていた。だから、初めは白かったふんどしも、いつの間にか、しょう油につけたような色になってしまう。そうなったふんどしは、雨ふりもようになるといつもジトォーッとしめってくるし、晴れの時はカラッとしている。
それで平六が、
「明日は晴れ」
というと、必ず晴れたし、
「もうじき雨が降る」
というと、雨が降って来た。兵六の天気占いがあんまりよくあたるので、町の人達はいつも、平六のところへ明日の天気を聞きにきた。
挿絵:福本隆男
そのうちこのうわさは、お城のお殿様の耳にまで届いた。お殿様は、
「平六とやらの天気占いはそんなによくあたるのか。そんならわしの家来にとりたてよう」
というて、平六を家来にした。
平六は、ふんどしで明日の天気を占っていただけなのに、お殿さまのお天気相談役にとりたてられたのだから、うれしくてたまらん。
『おれもえらくなったのだから、いつまでも古いふんどしをしめているわけにもいかん』
と考えて、古い汚れたふんどしをたんすにしまい込み、新しいふんどしにとりかえた。
夏も近いある日、お殿様は、狩に行くことになった。それで、平六を呼び出し、
「明日、狩に出かけるが、天気はどうじゃな、占ってみよ」
と申しつけた。平六は、
「ははあ、かしこまりました。一時(いっとき)おまち下さい」
というと、家にとんで帰り、たんすの奥から、古いふんどしをひっぱり出した。そうしたら、ふんどしはかびでまっしろけ。
『はてな、これは何だ』
としばらく考えていた兵六、何を思ったか、いそいでお城にとってかえし、
「お殿様、申し上げます。明日は雪でございます。狩はおやめになった方がよろしいでしょう」
と申し上げた。それを聞いたお殿様、
「このバカ者、夏だというのに、雪がふるわけがない。もし、雪がふらなかったら、お役御免だ」
と、カンカンにおこってしもうた。
次の日、雨はふったが、やっぱり雪はふらなかった。それで平六は、またもとの貧しいくらしにもどってしまった。
このことから、一時よくなったものが、またもとのようになることを、「もとの平六」というんだと。
どんとはらい、ほうらの貝こぽうぽうと吹いた。
民話の部屋ではみなさんのご感想をお待ちしております。
「感想を投稿する!」ボタンをクリックして
さっそく投稿してみましょう!
「もとの平六」のみんなの声
〜あなたの感想をお寄せください〜