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かにとさる
『カニと猿』

― 石川県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔々、あるところにカニがおったと。
 カニは馬の足跡(あしあと)みたいな田んぼに稲(いね)を作ったと。カニは、苗(なえ)に、
 「早ようふとらにゃ鋏(はさ)みきるぞ」
と言うたら、苗が大きく太ったと。
 
 今度ァ、
 「早よう穂が出なけりゃ鋏みきるぞ」
と言うたら、穂(ほ)が出たと。
 今度ァ、
 「早よう穂に実が入らにゃ鋏みきるぞ」
と言うたら、実が入ったと。
 今度ァ、
 「早よう実が色づかないと鋏みきるぞ」
と言うたら、色づいたと。

 
 そこでカニは田んぼへ稲を刈(か)りに行ったと。
 すると、藪(やぶ)から猿(さる)が出てきて、
 「カニどんカニどん、おれにも穂を一穂たもれ」
と言うたと。カニは、
 「神さまにも、仏(ほとけ)さまにもお初穂(はつぼ)をあげとらんから、お前にやるわけにはいかん」
と言うと、猿は、
 「くれないなら顔をひっかくぞ」
と言うたと。カニァ、怖(おそ)ろしくなって一穂猿にやったと。
 猿ァ、藪の中へその一穂持って行き、食うてしもうたと。食うて無くなったら猿ァ、また出てきて、
 「もう一穂たもれ」
と言うた。
 カニァ、
 「いやいや、神さまにも仏さまにもあげぬ先にお前にやるわけにはいかん」
と言うと、猿は、カニの顔をめらりとひっかいた。カニァ、顔をかかえて家に戻(もど)った。戻ったけれどもあとがどうなったか気になってならん。それで田んぼへ稲を見に出かけたそうな。


 田んぼの稲は、猿にみんな食べられてしまってあったと。
 カニは腹(はら)が立って、腹が立ってならん。猿を征伐(せいばい)しようと思うた。
 家に戻る途中(とちゅう)に黍(きび)の穂があったと。カニは女房(にょうぼう)に、
 「これを団子(だんご)にしてくれ」
と言うて、団子にしてもらうと、腰(こし)に下げて猿のところへ征伐に出かけたと。

 いくがいくがいくと、牛の糞(くそ)がいた。
 「カニカニ、どこへ行く」
 「猿のところへ猿征伐に」
 「お前の腰に下げているものは何じゃいの」
 「これは女房が作った黍団子(きびだんご)」
 「おれにひとつ下され、お伴(とも)します」

 カニと牛の糞が連れだって行くと、蜂(はち)がいた。
 「カニカニ、どこへ行く」
 「猿のところへ猿征伐に」
 「お前の腰に下げているものは何じゃいの」
 「これは女房が作った黍団子」
 「おれにひとつ下され、お伴します」


 カニと牛の糞と蜂が連れだって行くとドングリがいた。
 「カニカニ、どこへ行く」
 「猿のところへ猿征伐に」
 「お前の腰に下げているもの何じゃいの」
 「これは女房が作った黍団子」
 「おれにひとつ下され、お伴します」

 カニと牛の糞と蜂とドングリが連れだって行くと蝮(まむし)がいた。蝮にも黍団子をやって連れだって行くと百足(むかで)、針(はり)、漬(つ)け物石も次々に出てきたそうな。カニはみんなに黍団子をやって、お伴にしたと。
 カニは牛の糞と蜂とドングリと蝮と百足と針と漬け物石を連れて、猿のところへ猿征伐に行ったと。猿は家にいたと。


 先(ま)ずドングリが囲炉裏(いろり)の火の中へ飛び込んだ。ドングリが弾(はじ)けて猿の背(せ)中へぶち当った。
 猿ァ、熱ち、痛て、言うて戸口へ逃(に)げた。
 戸口の莚(むしろ)の耳に針がいて、猿の足裏(うら)を刺(さ)した。
 猿ァ、痛て、痛て、言うてたたらを踏(ふ)んで窓(まど)のそばへ行くと、蜂がブンブン飛んで猿の手を刺した。

 猿ァ、痛てよー、痛てよー言うて庭へ出て、手桶(おけ)の水の中へ手をつけたら、百足がその手にガチリと食らいついた。味噌蔵(みそぐら)の味噌桶(おけ)のところへ行くと蝮がチンチンにかみついたと。

 猿ァ、ふらふらして梯子(はしご)につかまろうとしたら梯子の下に牛の糞がいて、滑(すべ)って転んだと。頭を打って目をまわしていたら、そこへ屋根から漬け物石が落ちてきて、猿ァとうとうつぶれて死んだと。
 
 そうろん べったり あかなんば。

「カニと猿」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

楽しい

いつものおむすびと交換がない( 30代 / 男性 )

楽しい

いつものさるかにとは違う( 20代 / 男性 )

驚き

殺されちゃったのはびっくり!でもこういう性格の猿なら、お供した全員が猿からなにか嫌なことをされた恨みがあったのかな?とも思いました。人の物を奪うとひどい目にあうという戒めか、集団心理の怖さか、色々考えさせられる良いお話でした!( 30代 / 女性 )

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怖い

ちょっとこれは、ひどい… 穂を全部食べたのは猿がわるいが、だからといって“成敗”=“殺す”のはやりすぎかと( >д<) しかも、さんざん痛い目にあわせてから殺す、、、 まるで拷問のようで、想像するとこわいです。 昔の人は、よくもまあこんなこわいお話を考えたものだと、驚きます。( 40代 / 女性 )

楽しい

すごく面白かったです。 子供の情操教育とかの再話ではなく原形の感じがいいです。( 40代 / 女性 )

驚き

猿かに合戦と桃太郎が混ざったようなお話でした。かにがひどいと思います。田んぼの稲を全部食べられたぐらいで、猿を集団で殺すなんてひどすぎます。( 10歳未満 / 女性 )

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