最後の結末は予想できない (殿様と頓知小僧) ( 10歳未満 / 男性 )
― 石川県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔あるところに頓知(とんち)小僧(こぞう)さんがおった。
評判(ひょうばん)になって殿(との)様の耳にも聞こえたと。
ある日、殿さまは家来たちと馬の速駆(はやがけ)をした。駆(か)けて駆けて駆けているうちに海っ端(ぱた)に着いた。馬から下り、ほてった身体を海風にさらし海を眺(なが)めていたら、ひょいと面白そうな思案が浮(う)かんだ。
家来に、
「いつぞや噂(うわさ)をしておったあの頓知小僧な、確(たし)か、この辺りに住んでいると言うておったな」
「はぁ、さようでございますが、なにか」
「連れてまいれ。どれほどの頓知振(ぶ)りか、試してみとうなった」
「は、なるほど。それも一興(いっきょう)。それでは早速呼(よ)びに行かせましょう。これ、お前たち、村人に訊(き)いて頓知小僧を連れてまいれ」
「ははっ」
お供(とも)の者幾(いく)人かが村へ行き、頓知小僧さんを連れて来たと。
殿様、海っ端の岩に腰掛(こしか)け、意外そうな顔して小僧さんを見た。十歳(さい)位のただの子供だ。
「お前が頓知小僧か」
小僧さん、殿様が珍(めずら)しくて、食いいるように見つめていたら、お供の者に小突(づ)かれた。
「これ、返事をせんか」
「あ、はい。でも、おいら、自分からは言っていないもん。おいら、他人(ひと)に言い負かされるのが嫌(きら)いで、言い返していたら、いつの間にか頓知小僧って呼ばれるようになっただけだもん」
「よいよい、咎(とが)めているのではない。お前の頓知をな、聞きたいと思うているのじゃ」
「あぁよかった。おいら叱(しか)られるのかと思った。でも……、ただ頓知言われてもなぁ、殿様が何か言ってくれれば、おいら答えようもあるけどぉ」
「よしよし、それではな、この目の前の海の水な、みな呑(の)み干(ほ)してみよ、というたらどうする」
小僧さん、ちょっと思案して答えた。
「はい、呑み干します」
「ほほう、それは面白い、呑んで見せ」
「今、ですか」
「そうじゃ、余(よ)の目の前で」
「今は無理。だってさっきご飯を食べたばかりで腹一杯(はらいっぱい)だもん。それに、これだけの水を呑むとなったら、体調もよくしておかなくっちゃ」
「なるほど、それも道理。いつなら好い」
「明日の朝ならいいよ」
「よしよし、では明日の朝、また来よう」
殿様と家来たちは馬を駆(はし)らせてお城(しろ)へ帰って行ったと。
あとに残った小僧さん、難(なん)題を抱えて、さぁ困(こま)った…はずなんだが…ちいっとも困っとらん。村長(むらおさ)はじめ、大人たちの心配顔をよそに近所の子供らと遊びはじめた。
一方、お城で殿様、奥方(おくがた)相手に、今日こんなことがあったわい、と話しながら、あの頓知小僧め、明日になったらどんな言い逃(のが)れをしようとするやら、ああでもない、こうでもない、と翌(よく)朝が待ち遠しいふうだと。
さて、次の朝。
浜(はま)では紅白(こうはく)の幕(まく)を張(は)って村長はじめ大人たちが、馬を駆らせてきた殿様と家来御一行(ごいっこう)様を迎(むか)えた。砂浜に小僧さんが座(すわ)っている。
村長が何か言おうとするのを、殿様手でおさえ、たのしそうに小僧さんのところへ歩いて行った。
「これ頓知小僧、体調はどうじゃ」
「はい、とってもいいです」
「腹具合はどうじゃ」
「はい、朝ご飯をまだ食うとらん」
「そうか、では空いとるな」
「はいー」
「では準備(じゅんび)出来ておるな」
「はいー」
「では、この海の水呑み干して見せい」
「はいー。でも殿様、今朝の海の水、昨日より多くなった気がする」
「そうかな、そういうこともあるかもしれん」
「やっぱりそうかぁ。どっかで雨が降(ふ)ったんだ。
殿様、殿様にひとつお願いをしてもいいですか」
殿様、そらきたと思うた。この小僧がどんな言い逃れをするのか、これが楽しみだったと。
「よい、よい、言うてみよ」
「おいら、これからこの海の水を呑みます。ですが、その前に、海へ流れこんでいる川の水を一せいに停めて下さい」
殿様、みごとに一本とられたと。
そうろん べったり あかなんば。
最後の結末は予想できない (殿様と頓知小僧) ( 10歳未満 / 男性 )
おもしろかったです( 10代 / 女性 )
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「殿様と頓知小僧さん」のみんなの声
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