民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 面白い人・面白い村にまつわる昔話
  3. あほな聟さん

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

あほなむこさん
『あほな聟さん』

― 兵庫県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし、あるところにあほな聟(むこ)さんがあった。
 
 ある日、聟さんが嫁(よめ)さんに頼(たの)まれた用をたしに道を歩いていると、火事で大勢(おおぜい)の人達が働いていた。
「ご精(せい)が出ますね」
というて行き過(す)ぎようとしたら、その人達にどつかれた。
 
 家に戻(もど)ってそのことを嫁さんにいうと、
 「そりゃあ、いけん。『水の一ぱいも掛(か)けましょか』とでも言うて、手伝うもんじゃ」
と教えられた。


 「そうか、そんなもんか」
というて、また道を歩いて行ったら、鍛冶(かじ)屋さんが忙(いそが)しそうに仕事をしていた。火がゴンゴン燃(も)えている。嫁さんに教えられたことを思い出し、用水桶(ようすいおけ)を手に、
 「水の一ぱいもかけましょうか」
というて、その火に水をかけた。ジュッパーンと大きな音がして、鍛冶屋の店じゅう灰(はい)かぐらが舞(ま)って、鍛冶屋も聟さんも灰だらけ。
 また鍛冶屋にどつかれた。

 家に戻って、そのことを嫁さんに話すと、
 「そりゃあ、いけん。『向こう槌(づち)のひとつも打ちましょか』とでも言うて、手伝うもんじゃ」
と教えられた。


 「そうか、そんなもんか」
というて、また道を歩いて行ったら、今度は夫婦(ふうふ)がつかみあいの喧嘩(けんか)をしているのに出合わした。
 「だいたいお前がだな、あ、いてぇ」
 「なによ、あんたこそ、あ、いたぁ」
 夫婦は髪(かみ)の毛ひっつかみあって、顔は火が出そうなくらい真っ赤だ。嫁さんに教えられたことを思い出し、
 「向こう槌のひとつも打ちましょか」
というなり、二人の額(ひたい)をコンコンと叩(たた)いたので、また、夫婦にどつかれた。

 家に戻って、そのことを嫁さんに話すと、
 「そりゃあ、いけん。『あなたもごもっとも、こなたもごもっとも』というて、分けるもんじゃ」
と教えられた。


 「そうか、そんなもんか」
というて、また道を行こうとしたら、嫁さんが、
 「用たしはもういいから、今日はたくさんどつかれて疲(つか)れたろ。布団(ふとん)を敷(し)くからからだをやすめて」
というた。

 次の日、聟さんは、嫁さんに頼まれた用をたしに、また道を歩いていると、草地で、大きなこって牛が角を合わせてまくりあっているのを見た。
 昨日たくさん寝(ね)て元気な聟さん、嫁さんに教えられたことを思い出し、ここぞとばかりに、
 「あなたもごもっとも、こなたもごもっとも」
といいながら、二頭のこって牛の間に分け入った。
 聟さん、両方から角にまくられて、死んだと。
 
 いっちこたぁちこ。 

「あほな聟さん」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

楽しい

一切の応用が利かない人なんですね。 巻き込まれない限りはコメディーですね。巻き込まれなければ。( 20代 / 男性 )

驚き

死ぬとは思わなかった。びっくり。( 10歳未満 )

驚き

なんてタイトル!おもしろそうと聞き始めましたが…びっくり!!!( 50代 / 女性 )

もっと表示する
驚き

変で驚きました( 10歳未満 / 女性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

骨をかじる男(ほねをかじるおとこ)

古い学校には、必ずと云って良い程怪談の一つや二つはある。開かずの便所とか、誰もいない教室からピアノの音がするといった話が多い。―これは、大正の頃のあ…

この昔話を聴く

蛇の目玉(へびのめだま)

むかし、あるところに貧(まず)しい木樵り(きこり)がおったと。あるとき木樵りが山へ入るとどこからか女のうめき声が聞こえてきた。声のする方に近づいてみ…

この昔話を聴く

夜の蜘蛛(よるのくも)

昔、あるところに若い男が住んでいたに。そろそろ嫁をもらう年頃になっても、いっこうあわてない。村の年寄りたちが若者に聞くとな、「わしゃぁのん、嫁には注…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!