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なまけものとびんぼうがみ
『怠け者と貧乏神』

― 兵庫県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 昔、あるところにどうしようもない怠け者の男がおったそうな。
 ある年の暮れに、男がイロリの横で煎餅布団(せんべいぶとん)にくるまって寝ていたら、頭の近くに、天井裏(てんじょううら)からドサリと降り立った者がある。
 寝呆眼(ねぼけまなこ)でトロンと見たら、髪の毛はモジャモジャで、着物をだらしなく着とる年寄りだ。ガリガリに痩せこけているくせに、腹ばかりがプクンとふくらんどる。
 「お前ぇは、何者だいや」
 「わしゃ、永い間やっかいになっとる貧乏神だ」
 「何しに降りて来ただいや」 


 「お前ぇがあんまり貧しいもんで、近頃じゃ、わしの食う物も残しよらん。ひもじゅうて、ひもじゅうて、このままじゃ、わしの命が持たんので、逃げ出そうと思うて降りて来ただ」
 「そうかえ、そりゃぁ結構だ。俺らもその方がありがてえで、一刻(いっとき)も早う出てってくれぇ。土産にやるものも何も無いだで、せめて見送ってやりてぇが眠むくってならん。このままで勘弁しろいやい」 

 「これまて、目を開けえ。これまで永う世話になった礼に、ええ事教えてやる。目え開いとるな、よしよし。ええかよう聞け。明日(あした)の朝早うに家の前の道に出て待っとれ。宝物積んだ馬が通る。一番先の馬は金を積んどる。二番目の馬は銀を積んどる。終いの馬は銅じゃ。そのどれでもええ、棒でなぐったら、それはお前ぇの物になる。聞いたな」
 「聞いた。要するに全部なぐればええんじゃろ」


 夜明け頃になって、男は、
 『もう起きにゃあなるまい』 と思うたけど、いつもの怠(なま)け癖(ぐせ)でなかなか起きられん。また、トロトロ眠ったら夢を見た。金を積んだ馬をなぐった夢だ。
 

 
 丁度その時、外では一番目の馬が駆け抜けていった。
 そうとは知らぬ男は目を覚まして、
 「さいさきのええ夢じゃった。どうれ、三つともなぐって分限者になってやろ」
と、長い竿をかついで家の前の道に出て待っとったら、二番目の馬が駆けて来た。
 「おっ、金の馬が来たぞ。そうれっ」
 思いっきり竿を振りまわしたら、竿の先が木の枝に引っ掛かって、馬は目の前を駆け抜けて行く。
 「しまったぁ。ま、いい、残り二つをなぐっても分限者になれる。今度(こんだ)ぁ短けえ棒でなぐっちゃろ」 

 男が辛張(しんば)り棒(ぼう)を持って待っていると、三番目の銅を積んだ馬が駆けて来た。
 「銀の馬だ。今度こそっ、そうれ」
となぐった…けど、棒が短かくて届かなかった。


 「またしくじった。今度はもうちいっと長めの竿にしょう」
といって、手頃な竿を探して待っていると、また馬がやって来たと。今度のはポクポクゆっくり歩いてくる。
 「しめた。これなら打(う)ち損(そん)じはねえ」
と、思いっきりなぐったら、うまく当って馬が立ち上がった。そのひょうしに何かがドサッと落ちたと。
 「やったぞ」
と喜んで、落ちたものをよくよく見たら、これが何と、昨夜別れたばかりの貧乏神だった。
 「わしゃぁ、今年は他家(よそ)で暮らそうと思うとったにぃ、また世話にならにゃあならんとは」
 こうなげいたと。

 いっちこたぁちこ。

「怠け者と貧乏神」のみんなの声

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怠け者みたいにわならない様に、ガンバろうと思う。貧乏神は取り付くと厄介なので嫌だなぁと思った。

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