民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 妖怪と怪談にまつわる昔話
  3. のぶすま

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

『のぶすま』

― 広島県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし。
 ふたりの男が連れだって、茶臼(ちゃうす)山へ登ったそうな。
 古い合戦(かっせん)のありさまを話し合いながら、あのあたり、このあたりと眺(なが)めていたが、せっかくここまで来たのだから、大茶臼(おおちゃうす)へも登ろうということになったと。

 山径(やまみち)があったり無かったりしたので、とにかく上を目指した。険(けわ)しい所はお互いに引っ張(ぱ)り上げ、押し上げして、ようやく頂上(ちょうじょう)近くまで登ったと。


 「もうちょっとだ」
 「ひと息いれよう」
 ふたりは休み場所を探してあたりを見廻(まわ)した。すると、大っきな岩の下に油紙のような物が広げられてあった。
 「うまい具合の物がある」
 「誰(だれ)ぞの忘れ物かな」
 ふたりがその油紙に腰(こし)を下ろすと、涼(すず)しい風が渡(わた)ってきて、ほてった体に心地いい。手枕(まくら)でごろりと横になったら、うとうとして、いつの間にか眠(ねむ)ってしまったと。 
 すると、敷(し)かれてあった油紙が端(はし)からめくりあがって、ふたりの男をくるりと包みこんでしまった。
 「ややっ」
 「あやしいぞ」
 ガバッと起きようとしたら、どうしたわけか、身体に力が入らない。
 油紙は、ますます強く巻(ま)きついて締(し)めつけてくる。


 「むう、こりゃ化け物だ」
 「おおっ」
 ひとりが、ようやく山刀(やまがたな)を引き抜(ぬ)いて、ずぶずぶと油紙に突(つ)き刺(さ)した。
 すると油紙は、ギャッと叫(さけ)んで、ふたりをふるい落とし、風に凧(たこ)が舞(ま)い上がるみたいにひらひら飛んで行ってしまった。

 ふたりの男はへたへたとそこへ座(すわ)りこんだと。
 これは“のぶすま”という化け物で、人を包んで生き血を吸(す)うのだという。何でも、コウモリが千年経(た)って化けたものだそうな。


 けっちりこ。

「のぶすま」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

驚き

最後の最後に化け物とは!(⁎⁍̴̆Ɛ⁍̴̆⁎)( 40代 )

怖い

生き血を吸うのぶすまに生き血を吸われるだなんて怖い( 10代 / 男性 )

こんなおはなしも聴いてみませんか?

猪狩り正右衛門(ししがりしょうえもん)

昔、日向の国、今の宮崎県西都市に正右衛門という狩人があったげな。正右衛門は猪撃ちの狩人でな、山に入ると猪の気配を感じるじゃろか、犬の放しどころに無駄がなかったちいうぞ。

この昔話を聴く

鮎はカミソリ(あゆはかみそり)

とんとむかし。あるお寺に、たいそう鮎(あゆ)の好きな和尚(おしょう)さんがあったと。ところが、お坊(ぼう)さんは魚や肉を食べてはいけないことになっていたから、和尚さんはいつも、小僧(こぞう)さんに隠(かく)れてアユを食べていた。

この昔話を聴く

梟とカラス(ふくろうとからす)

昔、あるところに染物屋があったと。この家の息子は仕事もせんと遊んでばっかりの極道者(ごくどうもん)だったと。あるとき、お城のお侍(さむらい)が白絹(…

この昔話を聴く

現在886話掲載中!