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おきくののろい
『お菊ののろい』

― 群馬県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、上州(じょうしゅう)、今の群馬県沼田(ぐんまけんぬまた)というところに、小幡上総介(おばたかずさのすけ)という侍(さむらい)がおったそうな。
 疑い深く、短気な男だったが、お菊(きく)という美しい女中だけは気に入っておった。
 ある朝、上総介(かざさのすけ)が、お菊の給仕(きゅうじ)で朝ご飯を食べようとしたとき、ご飯の中に、何やら、キラリと光るものがあった。箸でつまみ出してみると、何と、それは一本の縫(ぬ)い針だった。
 上総介は、怒(いか)りでからだをふるわせ、お菊につかみかかって問(と)いただした。
 「この恩知(おんし)らずめ! よくもわしを殺そうとしたな。どうしてこんなことをしたのじゃ」

 
 まるで身に覚えのないお菊は、主人のものすごい剣幕におびえて、ただひれふすばかり。 めちゃくちゃに殴(なぐ)りつける上総介を、奥方がおもしろそうに見ておった。そればかりか、
 「この女は、もともと根性の曲った強情者。そんな仕置(しお)き位では、白状しますまい。どうです、蛇責(へびぜ)めになさっては」
と、けしかけた。
 お菊は裸にされて、風呂の中に、たくさんの蛇と一緒に投げこまれたそうな。


 風呂に水が入れられ、かまどに火がつけられた。水はどんどん熱くなり、蛇は苦しまぎれにお菊にかみついた。 地獄の苦しみの中で、お菊は、
 「このうらみ、死んでもはらしてくれようぞ」
と、言い残して、ついに死んでしまったと。

 それから何日か経(た)って、奥方は、体中(からだじゅう)針で刺される様な痛みをおぼえ、寝こんでしまった。
 医者にもまるで原因がわからず、手のほどこし様がなかった。


 くる日も、くる日も苦しんだすえに、
 「お菊、許しておくれ、針を入れたのはこの私じゃ。上総介に可愛がられるお前が憎くかったのじゃ」
と言うと、そのまま息絶えたそうな。
 上総介は真実を知り、後悔したがあとのまつり。
 その夜から、上総介の屋敷にお菊の幽霊が出るようになった。
 毎夜、毎夜のこととて、家来や女中達は怖がって、皆逃げてしまった。 一人きりになった上総介のところへ、お菊の幽霊は昼となく、夜となく現われて、
 「うらめしや―」
と、本当にうらめしそうに言うのだそうな。
 上総介は、とうとう気が狂って死んでしまったと。
 その後、小幡家の人々によって、お菊のためにお宮が建てられ、それからは、お菊の幽霊は現われなくなったそうな。

「お菊ののろい」のみんなの声

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悲しい

お菊さんが、かわいそう。奥方悪すぎ。( 男性 )

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