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かきうりとばあさん
『柿売りと婆さん』

― 福岡県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんがくらしていた。
 ある日のこと、婆さんが家の井戸端(いどばた)で畑から採(と)ってきた野菜を洗っていたら、男の人が垣根(かきね)の向こうから声をかけてきた。
 「やあ、ご精が出ますなぁ」
 あんまりなれなれしいので婆さん、はて誰(だれ)だったかいなぁ思うて、
 「どなたさんでしたか」
と聞いた。

 
柿売りと婆さん挿絵:福本隆男

 「ああ、こりゃどうも、(笑)私ぁ旅の物売りでして、その時どきで売る物が異(ちが)うんですが、今日は柿を売って歩いております。
 あの、すまんですが、水を一杯(いっぱい)飲ませてもらえんですかのう」
 「ああ、柿売りさんでしたか。どうぞどうぞ、ここへ来て、いいだけ飲みなされ」
 柿売りが井戸へ来て水を飲んでいる横で、婆さん、野菜を力強く振って水切りをした。


 そのさまを見た柿売りが、
 「ごちそうさまでした。それにしてもお達者(たっしゃ)ですなぁ。とてもとてもお年には見えません」
というたら、婆さん、
 「そうかい、うふふ。その柿、ちょっと見せておくれ」
というて、カゴのなかの柿を選びはじめた。柿売りがそれを手伝いながら、
 「いや、ほんとに、お婆さん、かれこれ六十位にはなんなさろう」
と、ほめたつもりで言うたとたんに婆さん、手にした柿をカゴに戻し、つっけんどんに、
 「水も飲んだことだし、他所(よそ)で売っといで」
というた。
 柿売りがその隣の家に行き、柿を買ってもらいながら、前の家の婆さんが突然腹を立てて買わなかった模様(もよう)を話したら、その家の奥さんが、
 「あのお婆さんは、年寄(としよ)りと言われるのが大嫌(だいきら)いなんですよ。お前さんがあのお婆さんを若い若いって誉(ほ)めてあげたら、きっと柿をなんぼでも買ってくれるよ」
と教えてくれた。


 柿売りは、また前の婆さんの家に立ち戻った。
 「あんたか、何か忘れものでもしたんか」
 「はい、先ほど飲ませてもろうた水のお礼をきちんと言い忘れておりましたもんで」
 「言うてったよ」
 「いえいえ、あんなもんでは言いつくしておりません。お宅を出てからいろいろ思案(しあん)しました。お婆さん、あなたがお達者なのはどうしてだろうとね。私ぁわかりましたよ。この井戸の水のせいに違いないとね。だから、若いんだ。身のこなしは、まだまだ十九か二十(はたち)か、二十一位といったところですよ」
 柿売りがこう言うと、婆さん、
 「そうかい、ほんとうにそう見えるかい。なんだね、このお天気のいい日に重いカゴを背負うて売り歩くというのもなんぎなことだねえ。いいよ、全部置いていきなさいな。お代はいくらだい」
というて、柿をみな買(こ)うてくれたと。


 その日の暮れ方になって、爺さんが山仕事から戻って来た。
 「婆さんや、こんなたくさんの柿、どうしたや」
 「買うたんですよ」
 「こんなにか」
 「はい、今日、柿売りさんが来ましてね、私のこと大層(たいそう)若くみえる様子で、十九か二十か二十一位だろうと言うものですから、あんまり嬉(うれ)しくて、みな買うてやりました」
 婆さん、いい気持でこういうた。そしたら爺さん、ハハー、ハハーと笑うて、
 「柿売りが十九か二十か二十一というたか」
 「はいー」
 「ハハハー、そうか。よう考えて見い。その三つの数を足したらいくつになる」
 「足すんですか」
 「そうじゃ」

 
柿売りと婆さん挿絵:福本隆男

 「十九と二十(にじゅう)で…三十と九、それに二十一加えると、えーと」
 「六十じゃろうが。丁度(ちょうど)お前の歳(とし)じゃろうが」
 爺さん、こういうて大笑いしたと。
 それぎんのとん。

「柿売りと婆さん」のみんなの声

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