悲しい結末でしたが、自然への畏れを忘れてはいけない戒めのようなお話で興味深いです。( 30代 / 女性 )
― 千葉県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
昔、上総(かずさ)の国(くに)、今の千葉県※浪花村(なみはなむら)という海辺の村に伝わるお話。
この村の海の沖には、なんと傘を広げたほどの、それは大きなアワビがおったそうな。
この大アワビを怒(おこ)らせると、たちまち大嵐を起こすと言い伝えられており、漁師たちは怖(こわ)がって、誰一人としてその近くで漁をする者はおらなんだ。
ところが、ある日のこと、一人の若い海女(あま)が、ふとしたことから、この大アワビを怒らせてしまった。
にわかに、空に黒い雲が垂れこめたかと思うと、たちまち激(はげ)しい雨となって、海は大荒れとなった。
※千葉県浪花村:現在の千葉県いすみ市
沖へ漁に出ようとしていた漁師たちは、あわてて船を浜へ曳きあげ、嵐のやむのを待っておった。そこへ海女たちもやってきた。
「お前たちの中で、誰か、あのアワビを怒らせた者がおるじゃろ」
若い海女は、「私です」とは言えず黙っておった。
「ま、仕方あんめえ、今日は漁をあきらめてのんびりしょうか」
漁師も海女も、みな、海辺の小屋に集まって、酒を飲んだり、歌を唄ったりした。
その場で、若い海女は、漁師のうちの一人を好きになったと。
次の日、海はおだやかだった。
漁師たちも、海女たちも、朝早くから海へ出た。
若い海女も海へ潜って貝をとっていたが、昨日の漁師のことを思うと、会いたくて、会いたくて、仕事が手につかん。
「そうだわ、嵐になれば、また海辺の小屋で、あの人に会えるかも知れない」
こう思って、大アワビのいる沖へ行き、大きな石を投げ込んだ。
海は、荒れに荒れた。
大あわてで浜に戻った漁師たちや海女たちは、うらめしそうに沖の方を見ておった。
「あの人は、きっといるに違いない」
若い海女は、胸をときめかせて、海辺の小屋へ向った。
が、ちょうどその頃、その漁師は、ずっと沖あいで、山のような三角波とひっしで戦っておった。海は猛(たけ)り狂い、これまでにない、そりゃあえらい大嵐だったと。
小屋に着いた若い海女は、他の漁師から、あの漁師がまだ沖にいることを知らされた。
「しまった、このままではあの人は帰れない。大アワビ様、お願いです。どうかこの嵐を鎮(しず)めて下さい」
と沖に向って手を合わせたが、海は鎮まるどころか、ますます荒れ狂った。
若い海女は、気も狂わんばかりに夢中で海へ飛び込んだ。高波にもまれながら必死で泳いだ。そして、やっとの思いで漁師の船が波の間に見え隠れするところまで近づいた時には、もう泳ぐ力も、浮いている力も残っていなかった。
若い海女は、
「ごめんなさぁいぃ」
と叫んで、海の底深く沈んでいった。
それから何日かたち、やっと大嵐はおさまったが、若い海女はむろんのこと、あの漁師も、とうとう浜には戻って来なかったそうな。
悲しい結末でしたが、自然への畏れを忘れてはいけない戒めのようなお話で興味深いです。( 30代 / 女性 )
むがし、あるところにひとりの若者があって、長いこと雄猫(おすねこ)を飼(か)っていたと。 そうしたところが、この猫がいつもいつも夜遊びをするので、あるとき、若者は猫のあとをつけてみたと。
「大アワビの怒り」のみんなの声
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