どんなくもかみてみたいです( 10歳未満 )
― 秋田県 ―
語り 平辻 朝子
採集・再話 今村 泰子
再々話 六渡 邦昭
むがし あったど。
あるどごに、誰も住んでいないお寺あったど。
これまで和尚(おしょう)さん幾人(いくたり)も来たけれども、翌朝になると居ねぐなっている。まんだ解(と)かれていね荷物(にもつ)だけが残っていて、奇妙な塩梅(あんばい)だと。
そんなことが幾度(いくたび)も重なったんで、今度ぁ、翌日の朝間(あさま)に未(ま)だ居たら軒下(のきした)の半鐘(はんしょう)鳴らしてもらうことにしたと。したども、やっぱり泊まれば泊まりっぱなしで、翌朝に半鐘鳴ることは無(ねぇ)かったど。
あるどき、また新しい和尚さんが来たど。
晩げになって囲炉裏(いろり)さ火ぃ起こして温(ぬく)もっていたっきゃ、旅の商人(あきんど)が大きい風呂敷(ふろしき)包み背負(しょ)って、訪ねて来た。
「暗ぐなってしまったし、今夜一晩(ひとばん)泊めてけれ」
と頼んだわけだ。和尚さんな、
「俺も来たばかりでもてなしは出来ねども、まんず、泊まてけれ」
とて、茶コ飲んで見てたば、旅の商人ァ風呂敷ほどいて、赤だの、青だの、黄色だの、色々な玉コ出してから、今度ァはあ、あっちゃ回し、こっちゃ回したりして、もてあそんでいるわけだ。
和尚さんな、きれいな色だと思って、あたりに散らばってある玉コひとつ手にとってみたきゃ、ピチャッと潰(つぶ)れて和尚さんの両掌(りょうて)にくっついてしまったど。
挿絵:福本隆男
玉コ壊(こわ)すは掌(て)からとれんは、これだば大変だと思って、旅の商人がこっち見ねうちになんとかはなそうとして足かけたきゃ、足さもくっついて動かれなぐなったど。
何としたらいいべかと思ってたきゃ、旅の商人な、和尚さんどこ見て、ニカッとして、いきなり、和尚さんの襟首(えりくび)つかんで本堂の方さ引きずって行ったど。
和尚さんな、何ともかんともならなぐて、引きずられながら、こりゃ殺されるべ、と観念(かんねん)した。お経コ読んだと。読んで、読んで、読んでらっきゃ、段々に手ぇはなれ、足ぃはなれ、してきたわけだ。それで声を大っきくしてなおもお経コ読んでたきゃ、いつの間にか旅の商人も何も居なぐなって、夜も明けてきたど。
和尚さんな、村の者たちに言われてたのを思い出して、軒下の半鐘鳴らしたど。カン、カン、カンって。
村の者たちが寺さ集まってきたば、
「おお、たしかに今度の和尚さんだ」
「無事(ぶじ)に居てあった。いや、良(え)がった」
と、喜んだっきゃ、誰かが
「夜なかに何も無かったかや」
と訊いた。和尚さんな、夜の出来事を語ってやったど。村の者たちゃ
「旅の商人って、それ、妖(あや)しいぞ」
「何かの化装(けそう)だべ、人で無(ね)えぞ」
「それは何だべ」
挿絵:福本隆男
と語り合って、皆して探したど。探して、探して、探してだっきゃ、裏の竹藪(たけやぶ)に、大(で)っこい、大(で)っこい蜘蛛(くも)死んでしまってらったど。
とっぴんぱらりのぷう。
どんなくもかみてみたいです( 10歳未満 )
何で蜘蛛はしんじゃったの( 10歳未満 / 男性 )
昔、駿河(するが)の国、今の静岡県の安倍というところに、亭主(ていしゅ)に死なれた母親と二才の赤ん坊がおったそうな。母親は、毎日赤ん坊をおぶってはよそのお茶摘みを手伝って、やっと暮らしておったと。
昔、あるところに、人の住まない荒(あ)れた屋敷(やしき)があったそうな。何でも昔は、分限者(ぶげんしゃ)が住んでいたそうだが、どうしたわけか、一家みな次々に死に絶(た)えてしもうて、そののちは、だあれも住む人もなく、屋敷と仏壇(ぶつだん)だけが荒れるがままの恐(おそ)ろしげになっておった。
「蜘蛛の化物」のみんなの声
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