― 秋田県 ―
語り 井上 瑤
再話 清野 照夫
整理・加筆 六渡 邦昭
むがし、あったけど。
あるお爺(じい)さん、寒の明げる晩に、
「豆も無(ね)えす、嬶(かか)もいねぇのだす、一人だも、どうもなんねえ、豆なの蒔(ま)がねぇ。火ぃ焚(た)いであだっちゃ」
て、どっさり焚き物くべてあだったど。
ほうしだら、
「今晩は!」
て来だ人あっでほの。
戸開げで見だどころ、鬼(おに)だでほの。
「どごさ行っても『鬼は外、鬼は外』て、『福は内、福は内』て、『福の神様ばり入れ』て、言うもんださげ、俺ぁ行ぐどこ無ぇもんだす。俺さ火ぃあだらしぇでけっちゃ」
鬼がこう言うもんださげ、お爺さん、
「おう、ほだが、ほだが。俺家(おらえ)でぁ豆も無ぇんだ。嬶も誰もいねぇもんだし、今夜は豆なの蒔かねぇですまそうど思って、火さあだってたなだ」
て、貰(もら)った餅(もち)ひとつ、火さあぶっていだって。
「しぇば、その餅、砂糖(さとう)でもつければうまいもんだのぉ」
「鬼どの、あんだ、砂糖に化げらんねぇもんだが」
「化げらんねぇこどは無ぇげんども、化げだら、それつけて喰(く)うつもりだろが」
「まーず、そんなもんだのぉ」
「砂糖には化げられるども、砂糖食べですまえば、お前(め)の腹(はら)破(やぶ)って出て来っぞ」
「腹破られるんでぁだめだのぉ。ほんでぁサイコロに化げらんねぇがのぉ。博打(ばくち)するにええが」
「化げられる」
「しぇば今晩、俺、人集めっさげ、俺ど二人して金儲け(かねもうけ)しょ」
「しぇばそうすっか」
「サイコロの目ぇ、一起ぎれっていえば、一起ぎればいいす。二起ぎれって言えば二起ぎればいいす」
て、鬼だもん、ほれ、何にでも起ぎられる。
「たまには他の人にも当たるようにして、俺ばりしたって何だしのぉ」
て、今度ぁ、その晩、博打打ち(ばくちうち)十人ばり集めで来て、博打打っだでほの。
挿絵:福本隆男
「一起ぎれ」て言えば一起ぎる。
「三起ぎれ」て言えば三起ぎる。
サイコロは他の人にも、三回も五回も渡って行ぐんども、他の人が振ったって、目はみんな自分さ入ぇるだもの。
ほうして夜明げまでかがって、博打打ち達(だ)ちゃ、お金無ぐしてすもたてほの。
他の博打打ち達(だ)ちゃ、
「夜も明けだし、帰ろやぁ。明日の晩げも勝負してくれろ」
「んでぁ、明日の晩げもやりぁいいなだのぉ」
て、ほうしてみんな帰ったあど、鬼どお爺さんど二人して、どっさりお金分けで、ほれから今度ぁ、米も買ったり、豆も買ったりして、福福(ふくぶく)しく暮らしてあったど。
貧乏で豆蒔きなの、何もさんねぇったて、やっぱりいいごどもあるもんださげ、て。
そえで どんぴんかだり なえっとだ。
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むかし、あるところに爺(じい)さんと婆(ばあ)さんがくらしていた。 ある日のこと、婆さんが家の井戸端(いどばた)で畑から採(と)ってきた野菜を洗っていたら、男の人が垣根(かきね)の向こうから声をかけてきた。
むかし、あるところに、ひとりの爺(じ)さが居てあったと。爺さは、毎日山へ木をきりに行っていたと。ある日、爺さが山へ行ったら、ケン、ケーン、クーン、と苦しそうなキツネの鳴(な)き声が聴(き)こえてきた。
「節分の鬼」のみんなの声
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