『諸国百物語』巻四の三「酒の威徳にて化物を平らげたること」と似たものを感じる
― 秋田県 ―
語り 平辻 朝子
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところにお寺があって、和尚(おしょう)さんと小僧(こぞう)さんが暮らしてあったと。
春になって、山にウドやらワラビやらフキなどの山菜(さんさい)がいっぱいなったと。
小僧さんが、
「和尚さん、おら、山さ行って山菜とってくる」
というと、和尚さんは、
「そうか、今頃はいっぱいなっとるな。だども山ん婆(やまんば)も山菜食いに出とるかもしれんから、よくよく気をつけねばなんねぇど。これ、持っていけぇ。魔(ま)よけの札(ふだ)だ」
というて、三枚のお札をくれた。
「これは、お前(め)が困ったとき使え。願ったとおりになる札こだから」
と教(おせ)えられ、小僧さん、そのお札三枚持って山へ出かけたと。
いくが、いくが、行くと、山にはウドやらワラビやらフキがいっぱいなっていて、背負(しょい)カゴにポイポイ入れとった。あっちでとり、こっちでとり、むこうでとりしているうちうに、どこがどこやらわからんようになった。
「さぁて困ったなぁ」
いいながら、あてずっぽうに歩いていたら、山家(やまが)が一軒(いっけん)あった。戸をたたいたら、婆(ばあ)さまが出てきて、
「おーお、小僧か。よく来た、よく来た。わしはお前(め)のおばさまだ。さ、ささ、あがれ」
という。
「あのう。おれにあんだのようなおばさまいてあったなんて、聞いてねぇども」
「そうかぁ、そんなはずはねぇと思うがな。お前(め)に小便(しょうべん)ひっかられながらオンブしてやっていたおばさまだぞ。ま、そんなことはええ。まずは飯(まま)食え。」
というて、ウドの酢物(すのもの)だのフキの煮物(にもの)だの出してくれた。これがうまいんだと。
「うめな、うめな」
って、小僧さん、腹いっぱい食うた。食うたら眠たくなって、つい、うとうとぉとしてしまった。
しばらくして目を覚ますと、おばさまだというひとが、向こう向きで包丁をといでいた。それが、おっかねぇ顔した山ん婆(やまんば)だったと。
小僧さん、わざとウーンとのびをしたら、山ん婆のおっかねぇ顔が、ぱっと、優(やさ)しい顔に変わった。
「ばんば、おれ、便所(べんじょ)さ行きてぇ」
というと
「この縄(なわ)、腰さ結わえて行け」
という。
便所に行った小僧さん、腰の縄をほどいて柱にまきつけ、和尚さんからもらったお札を一枚縄にはさんで、お札に、
「ばんばが呼ばったら、『まーだ』と返事しとかれ」
というて、こっそり逃げ出した。
いつまでたっても小僧さんが戻(もど)らないので、山ん婆が、
「小僧、まだかぁ」
と呼ばったら、
「まーだ。まーだ」
と返事がする。
「小僧、まだかぁ」
「まーだ。まーだ」
「小僧、まだかぁ」
「まーだ。まーだ」
いくら呼ばっても、まーだ、まーだというもんで、山ん婆、これは妙だと思い、縄を強く引いた。便所の柱が抜けてきて、お札(ふだ)が、
「まーだ。まーだ」
と返事をしている。
「小僧、逃げたなぁ。おのれ、まてぇ」
山ん婆、小僧さんのあとを追いかけたと。山ん婆の足の速いこと速いこと。すぐに追いついて、手を伸ばして小僧さんの首根(くびね)っこをひっつかもうとした。
小僧さん、「うっひゃぁ」ゆうて、急いでお札を一枚、うしろへ投げた。
「おっきな川、出はれぇ」
って。
挿絵:福本隆男
すると、大きな川が山ん婆の前に出来た。
山ん婆が川をばっしゃ、ばっしゃこいでいるうちに、小僧さん、逃げに逃げた。
しばらくすると、また、「おのれ、まてぇ」 って、追いかけてきた。その速いこと速いこと。たちまち追いつかれて、手を伸ばして小僧さんの首根っこをひっつかもうとした。
「うっひゃぁ」
ゆうて、いそいで最後のお札をうしろへ投げた。
「大っきな砂山、出はれぇ」
って。
すると大っきな砂山が山ん婆の前に出来た。山ん婆が砂山を登っては滑り落ち、登っては滑り落ちしているうちに、小僧さんは逃げて、逃げて、やっとお寺に着いたと。
山寺の石段を登り、山門をくぐり、庫裏(くり)に着いて、戸を開けようとしたら、辛張棒(しんばりぼう)が突っかえて戸が開かない。戸を叩(たた)いて、
「和尚さん、和尚さん、山ん婆が追いかけてくる。早く戸を開けて」
というと、和尚さん、
「あ、あぁ、今な、囲炉裏(いろり)で餅(もち)焼(や)いとる。餅をひっくり返してからな」
「餅なんかどうでもいい。ああ、山ん婆が石坂を登ってくる。早く戸を開けて」
「あ、ああ、今、ゾウリを履(は)いとる」
「ゾウリなんかどうでもいい。ああっ、山ん婆(やまんば)が山門をくぐっている。早く開けて」
「あ、ああ、今、辛張棒(しんばりぼう)をはずしとる」
「早く早く、早くう」
「ほれ開いたぞ」
「んもう」
小僧さん、和尚さんの脇を抜けて、奥の便所の方へ、すっとんで行った。そしたら、すぐに山ん婆があらわれ、
「和尚、和尚、ここさ、小僧来(こ)ねかったか」
「来たみたいだな。わしの脇(わき)通って、どこかへ素飛(すっと)んで行きおった。
「捜(さが)すぞ」
「捜(さが)してもいいけど」
「ん、餅(もち)の焼けるいい匂(にお)いがする」
「今、焼いとったところだ。餅食うてから捜すか」
「そだな。こんな小(こ)んまい山寺捜すのわけないから、餅食うてからにするか」
「それがよい。ほれ、ひとつ。わしもひとつ」
というて、和尚さんと山ん婆、囲炉裏端(いろりばた)に座って、味噌豆(みそまめ)つけて餅を食いはじめた。
「どうじゃ、うめだろう」
「あつ、あつ、ほうほう、うんうめえ」
「そうじゃろ、寺の餅は檀家(だんか)が一等いい餅を持って来てくれるからの、うまいんだ。もひとつどうだ。ほれ」
「あ、すまね」
「ところで、山ん婆、お前(め)、何にでも変化(へんげ)出来るんだってな」
「そうだ、何にでもなれる」
「ほうか、すごいな。試(ため)しに大っきなものになって見せてくれんか」
「お易(やす)いことだ。見てろ」
というて、山ん婆は、天井に届くほどの大入道(おおにゅうどう)になった。
「どうだ」
「すごい、すごい。だが、変化するものはたいていは大っきくなれるものだ。本当にすごいものは、この味噌豆くらいに小(こ)んまくなれるものだ。お前(め)、なれるかや」
「なれるさ。見てろ」
というや、たちまち小んまい味噌豆に変化した。
和尚(おしょう)さん、
「すごい、すごい」
といいながら、ひょいとつまみ、熱っつい餅(もち)にくるんで、パクッと食べた。ごっくんと飲み込んで
「小僧や、出て来ていいぞ」 というた。
小僧さん便所から出てきて、山ん婆来なかった、ときいたら、和尚さん、
「来たども、わしが飲み込んで、今は、ほれ、この腹ん中だ」
って、ポンポンと腹ぁたたいたと。
どっとはらい。
『諸国百物語』巻四の三「酒の威徳にて化物を平らげたること」と似たものを感じる
最後はおしょうさんと仲良くなってたのがびっくり!
山姥に追いかけられた後に味噌豆を普通に食べれる小僧くるってるww
ちょっと怖かった でもいい話( 30代 / 女性 )
山姥は、うんこをしているのかも!ということを思いつかなかったの草
これはやばい和尚さん死亡説( 10歳未満 / 男性 )
小豆食いたくなってきた ( 10歳未満 / 男性 )
3まいのお札つかってみたい。( 10歳未満 / 男性 )
もう山姥死んでんじゃねぇの?
面白かったです。
「三枚のお札」のみんなの声
〜あなたの感想をお寄せください〜