― 山梨県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭
むかし、あるところに大層けちな男がおったと。
あるとき、村の外へ出掛けていて屁をこきたくなった。男は、
「肥(こやし)の息だ、もったいねぇ」
といって、紙袋に屁をこいて持ち帰り、畑へ埋めた。
男の作る人参だの大根だのは、大っきく育ったと。
男のけちぶりがあんまりみごとなんで、物好きな村人が、ある夜、男のけちぶりを見てやろうと訪ねて行ったら、家の中は灯(あかり)がついとらん。真っ暗なんだと。
「なるほど、油の節約か。が、この程度はどこの家でもやっている。驚ろきはせんぞ」
といいながら家の中にあがってみたら、男が素っ裸で寝っ転がっておった。
「お前(め)ぇ裸で何をしとる」
「着物を着れば着物がすり切れろうが。起きとればその分(ぶん)腹が減ろうが。だから裸で寝とる。誰に遠慮することねえ我が家じゃ」
「風邪でもひいたらどうする」
「なんの、風邪ひくどころか、俺らぁ汗が出て汗が出て困るくらいだ」
「何でじゃ」
「上を見てみい」
村人があおのいて上を見ると、何と、でっかい石が、細い紐(ひも)で結(ゆわ)かれて天井から釣り下がっておった。
今にも落ちてきそうで、村人は、
「ひやあっ」
といって、思わずうしろへ飛び退(の)いた。
「ウヒェヒェヒェ、どうじゃぁ、お前も汗が出たろうが。この石が、今落ちるか今落ちるかと思うと、緊張して寒いどころでない、ちゅうのがようわかったろうが」
村人が、男のけちぶりにすっかりかぶとをぬいで、
「こりゃ、つきあいきれん」
と帰ろうとしたら、真っ暗なんで履物のありかがわからない。それで、
「火を貸してくろ、履物が見えん」
というと、男は勝手口から薪雑棒(まきざっぽう)を一本持って来て、土間にかがみ込んでいる村人の頭を、ポカリとぶんなぐった。
「あ痛たあ、何をするか、目から火が出たじゃねぇか」
と叫ぶと、男はすかさず、
「その火でさがせ」
と言った。
村人は、ほうほうのていで逃げ帰ったと。
さて、その年も暮れて、やがて新年になった。
村人は、何とかしてあのけち男の鼻をあかしてやりたいもんだと思って、元旦早々、稲の稾を一本持って男の家を訪ねたと。
「今年からは、おれもお前(め)ぇに習って、節約することにした。お年玉に、こんな物を持って来たが、これで煙管(きせる)のヤニでも除(と)ってくろ」
と言って差し出すと、男は「ほう、お前にしては出来過ぎた贈り物じゃの」
と言って受けとったと。
村人は、してやったりとほくそ笑んでいたら、次の日、男が昨日(きのう)のお礼にやって来た。
「これは、ほんのお年玉じゃが、しびれ薬にでもしてくんろ」
と言って懐から取り出した物をよくよく見たら、昨日持って行った一本の藁を、チョンチョンチョンと、小指(こゆび)の先くらいの大きさに切ったものだった。男はすまして、
「昔から、しびれがきれたとき、『しびれしびれ京へ上(のぼ)れ』と三遍唱えて、ワラ切れをなめて額に貼るとええ、ちゅうじゃろが」
こう言ったと。
これには村人も、あいた口がふさがらなかったと。
いっちんさけぇ。
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むかし、あるとろに和尚(おしょう)さんと小僧(こぞう)さんとが居ったと。そのお寺に大きい枇杷(びわ)の木があって、毎年うんとこ実がなるのだと。ところが和尚さんは欲んぼうで、自分ばっかり食うて、小僧さんにはちいっとも食わせないのだと。
「藁の贈り物(目から火)」のみんなの声
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