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おしょうさんとたぬき
『和尚さんと狸』

― 山形県 ―
再話 六渡 邦昭
語り 井上 瑤

 むかし、むかし、ある山里に貧乏なお寺があって、和尚(おしょう)さんが一人住んであった。
 その寺へ、毎晩のように狸(たぬき)が遊びに来て、すっかり和尚さんになついていたと。
 その狸がまだ豆狸(まめだぬき)のころ、ときには和尚さんの勤業(おつとめ)の脇(わき)にチョコンと座り、読経(どきょう)をコックリ、コックリしたり、首傾(くびかし)げ、首傾げして聴(き)いていることもあったと。

 
和尚さんと狸挿絵:福本隆男

 その豆狸が、いつの間にか古狸(ふるだぬき)になって、すっかり動きが鈍くなってきたと。
 元気盛りには、畑のネズミを捕(と)ったり、田圃(たんぼ)の蛙(かえる)をパクリとくわえたりしていたのが、近頃(ちかごろ)は、どうにも思うたとおりにいかん。それらに逃げられることが多くなった。エサに困って痩(や)せてきたと。

 
 和尚さん、
 「これ、タヌや、わしも貧乏じゃが、お前も貧乏になったな。よいよい、お前のことはわしが引き受けた」
というた。それからは和尚さん、法事(ほうじ)に招ばれたときにも、ちいっとも遠慮(えんりょ)せんと、ご膳(ぜん)やらお供えやらを貰(もら)うて帰(かえ)るようになった。ときには、
 「肉か魚はないかの、あったら少々喜捨(きしゃ)して呉(く)れんか」
と、催促(さいそく)することもあり、
 「はえ、和尚さまは生臭(なまぐさ)い物もめしあがりまするか」
 「あ、いやいや、わしではない。わしんとこのな、古狸用じゃ。あいつ、近頃はわしと同じスイトンや菜っ葉の類(たぐい)ばかり食うておる。ちと可哀(かわい)そうでの。いや、無ければええ。ええんじゃ」


 「はえ、そうでござりましたか。そうでござりましょうなぁ。そういうことなら、ちいっとは喜捨いたしましょ」
 「そうか、それはすまんな」
というて、もろうて来、
 「うまいな」
 「ほれお前も食え」
というて、狸と一緒にたべるのだったと。
 寒くなると、囲炉裏(いろり)で共に、腹(はら)あぶり、背あぶりして、今では狸も家族同然(かぞくどうぜん)だと。


 あるとき、狸が、
 「和尚さま、和尚さま、おれ、こんなにご厄介(やっかい)になって、何かご恩返しをしたいけど、何がいいべか」
というた。和尚さん、
 「いやいや、恩返しなんていらん。お前とこうして仲ようしてるだけで充分(じゅうぶん)だ」
というたと。
 こんな話をしたあと、少したって、狸がふいに居なくなった。幾日たっても姿(すがた)を見せない。
 和尚さん、心配で心配でならん。


 「タヌの奴、どっかで誰かに捕(と)らえられたんじゃろうか」
というて、あっちの山の穴(あな)、こっちの池のほとり、という具合に、毎日、毎日、捜(さが)し歩いたと。が、なんぼ捜しても誰に訊(き)いても狸の行方(ゆくえ)は分からなかったと。
 和尚さんの寂(さび)しい毎日が続き、一年が経(た)ち、二年が経ち、三年が経った。


 ある夜のこと。
 和尚さんが、そろそろ寝(ね)ようか思うていたら、「トントン、トントン」と、誰かが戸を叩(たた)いた
 「はて、こんな夜更(よふ)けに誰じゃろな」
というて、出てみて、びっくりした。
 「あや、タ、タヌ、タヌか。タヌだな。お前だな、タヌだな」
 「和尚さま、和尚さま」
というて、和尚さんは狸を抱きかかえる、狸は和尚さんの顔を舐(な)めまわすで、クンクン、タヌタヌって、大騒(おおさわ)ぎだ。

 
和尚さんと狸挿絵:福本隆男

 ひと騒ぎがおわって、狸が、
 「和尚さま、永(なが)いこと留守(るす)して申し訳ないことでした。おれ、和尚さまに何か御恩返しをしたいと考えたが、和尚さまに「いらん」といわれて、また考えたです。おれが居た永い間、和尚さまは銭(ぜに)が無くて、食い物を買うことも出来なかった。だからおれ、和尚さまに銭をおあげするのが一番いいご恩返しだって。


 おれは、人を騙(だま)して銭を盗(と)るのは造作(ぞうさ)もなく出来るが、それでは和尚さま喜んでくれん。
 それでおれ、船に潜(もぐ)り込んで佐渡(さど)に渡った。そして金山(きんざん)のあたりほとりに住んで、金掘(きんほ)り人足(にんそく)が捨(す)てる古ワラジをさらっては、ワラジの目にこびりついた砂金(さきん)を集めた。少しずつ集めて、三年かかってやっとこんだけ貯(たま)った。
 もっと集めたかったけど、おれ、身体(からだ)の調子が悪くなって、今、和尚さまのところへ帰らねば、もう、帰ることが出来なくなるから、こんだけで切り上げて帰ってきた。
 どうぞ受け取って下さい。」


 こういうて、和尚さんの前へ砂金の入った袋(ふくろ)を差し出した。
 和尚さん、のどがつまって何も言えないでいると、
 「おれ、力つきて、これまでです。和尚さま、おさらばでございます」
というて、スーイと狸の姿、消えてしまったと。
 砂金の入った袋だけ残して。
 
 どんぶんからりん すっからりん。

「和尚さんと狸」のみんなの声

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感動

たぬきけなげ( 30代 / 女性 )

感動

令和四年6月10日現在、「和尚さんと狸」の話を聴いて感動し、このタヌさんの様に受けた恩義を長年努力してお返ししようとする若者、いや御仁はいるのだろうか… 少なくとも5年前の私ならばそんな余裕は無かったかも。今ならば、老い先短い今ならば、タヌさんがした様にコツコツと砂金を集められたかもしれない。欲望があるうちはなかなか出来ない感謝の所作。タヌさん有り難う。( 60代 / 男性 )

悲しい

狸と和尚さんの友情に心温まりました。最後は切なかったけど、いいお話でした。( 30代 / 女性 )

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