民話の部屋 民話の部屋
  1. 民話の部屋
  2. 言葉の聞き違い・言葉遊びにまつわる昔話
  3. 正月の歌詠み

※再生ボタンを押してから開始まで時間がかかる場合があります。

しょうがつのうたよみ
『正月の歌詠み』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
再話 六渡 邦昭

 むかし、むかし。あるところにお姑(しゅうとめ)さんと嫁(よめ)とお手伝いがいたと。
 
正月の歌詠み挿絵:福本隆男


 ある年のお正月に、お姑さんが、
 「今日は正月休みだ。正月にはお天子様(てんしさま)のところでは歌会(うたかい)をもよおすそうだが、ひとつ家(うち)でもやってみようかね」
というた。嫁が、
 「歌会にはお題(だい)というのを決めて、必ずそれを入れて詠(よ)むそうですが、何にします」
と聞いた。お姑さんが、
 「そうだねぇ、そんなら、歌の尻(しり)に必ず、二つ三つ四つと付けて詠むというのはどうかね」
というたら、嫁が、
 「変なお題」
というた。お姑さん、嫁にけなされてカチンときたと。


 「先(ま)ずは嫁、お前(め)からだ」
というたら、嫁は、この家に嫁(とつ)いでくる前にお姑さんからもらった手紙のことを歌にした。
  是非(ぜひ)嫁にと貰(もら)った文(ふみ)はうれしいが
   読めない文字が 二つ三つ四つ
お姑さん、ますますカチンときた。が、正月だから怒るわけにもいかん。そこで
 「次は俺(お)れが詠む」というて、
  やがてみな臑(すね)も太れば気も太る
   可愛(かわい)いさかりは 二つ三つ四つ
と、嫁の顔を見ながら詠んだ。
 嫁はにっこりして受け流したと。
 次はお手伝いの番になった。お手伝いは、
  たまさかに会(お)うたうれしさ夏の夜の
   汗をかきかき 二つ三つ四つ
と、すまして詠んだ。

 
正月の歌詠み挿絵:福本隆男

 お姑さんも嫁さんも、昔をなつかしむような顔になって、一ぺんに場がなごんだと。
 とーびんと。
 

「正月の歌詠み」のみんなの声

〜あなたの感想をお寄せください〜

感動

嫁の歌はすごくよかった( 10歳未満 / 女性 )

感動

このような民話があるんですね。驚きました。 庶民の家庭で、家族が集まって歌会をするなどとは、かなり文化のレベルが高いですね。

こんなおはなしも聴いてみませんか?

においの代金(においのだいきん)

むかし、ある町にえらくケチな男が住んでおったと。飯を食うにも梅干をじいっと見て、酸っぱいつばがわいてきたら、いそいでご飯をかきこむ、というぐあいだったと。

この昔話を聴く

雪女(ゆきおんな)

むがすむがす、白河様(しらかわさま)という殿様(とのさま)の頃の話だど。ある雪の降る夜、お城の夜の見廻(みまわ)り番の侍だちが四方山話(よもやまばな…

この昔話を聴く

山の神とマタギ(やまのかみとまたぎ)

北秋田の山奥には、マタギというて、熊だの鹿だの獲(と)る猟師(りょうし)が、いまでも住んでおる。むかしは、何人かで組をつくっての、冬山に小屋掛けして…

この昔話を聴く

現在884話掲載中!