鳥取市の立見(たちみ)峠には、『おとんじょろう狐』という違う昔話が伝わっています。( 40代 / 男性 )
― 岡山県 ―
語り 井上 瑤
整理・加筆 六渡 邦昭
出典 「なんと昔があったげな」下巻所収
『おとんじょろ狐』岡山民話の会編
なんと昔があったげな。
因幡(いなば)の国のかわばら村というところから、鳥取の城下町にはいる小径(こみち)に、たじみ峠(とうげ)という坂があって、そこに、“おとんじょろ”という狐(きつね)がおった。とても性質(せいしつ)のいい狐で、ほかの狐はよう人をだますけれども、この狐は決して人をだまさないのだと。
あるときのこと。二人の旅人がたじみ峠へさしかかったところで日が暮れてしまったと。あいにく提灯(ちょうちん)はないし、お月さまもないし、困っていると、旅人の一人にいい思案が浮かんだ。
「ここには“おとんじょろ”という、とてもいい狐がおるんだが、それに頼んでみようじゃないか」
「そんなことが出来るんかな」
「そりゃどうかな。ただ困った者を助けてくれたということを昔から聞いとるんだが、やってみなくてはわからん。」
「それならひとつ頼んでみようか」
「よかろう」
「おおい、おとんじょろやぁ、道が暗くて困っているんだが、何とかならないかなー」
大きな声で山に向かって叫(さけ)んだところ、不思議なことに、向こうの山の尾根にボーッと赤い火がともったと。
挿絵:福本隆男
するとまた、向こうの木の上にボーッと火がともって、あそこでもここでもという具合にポツリ、ポツリと火がともって、あたりがとても明るくなったと。
「ああ、ありがたいなあ。いい狐だなあ。おとんじょろやぁ、頼むぞう」
旅人二人は、おとんじょろがともしてくれた明かりで、安心して峠の坂道を上り、下って行ったと。小径をなをも行くが行くが行くと、やがて鳥取に通じる大きな道との出合(であい)にさしかかったと。
「ここまで来れば、もう大丈夫。おとんじょろにはすっかり世話になった。何かお礼をせねばなるまい」
「そうだの、おうそうだ、幸いにもわしは油揚(あぶらあげ)を持っている。狐は油揚が好きだというから、ここに置いていってやろう」
「ああよかろう、よかろう」
というて、岩の上に油揚を五・六枚置いたと。
挿絵:福本隆男
そして、
「おとんじょろやぁ、ありがとう。これで広い道になったから、もういいぞう。ここに油揚が少しばかりあるから、みんなで食べてくれぇよう」
というて、広い道を歩き出したら、ボーッとともっていた赤い火が、あそこのがひとつ、ここのがひとつ、という具合にパッ、パッと消えて、ついにはみな消えてしまったと。
むかしこっぽり鳶(とび)の糞(くそ)。
鳥取市の立見(たちみ)峠には、『おとんじょろう狐』という違う昔話が伝わっています。( 40代 / 男性 )
昔、あるところにひとりの兄さまがあったと。 ある晩げ、天井から一匹の蜘蛛がおりてきた。 夜、蜘蛛が家に入ってくるのは縁起が悪いといわれているので、兄さまは、 「クモ、クモ、今晩何しておりてきた」 といって、蜘蛛を囲炉裏の火にくべようとした。そしたら蜘蛛が、 「兄さま、どうか助けで呉」 というた。
むかし、ある村に藤六(とうろく)という百姓(ひゃくしょう)がおったと。 ある日のこと、藤六が旅から村に帰って来る途(と)中、村はずれの地蔵(じぞう)堂のかげで、一匹の狐(きつね)が昼寝(ね)しているのを見つけた。
「たじみ峠のおとんじょろ狐」のみんなの声
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