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じぞうむがし
『地蔵むがし』

― 山形県 ―
語り 井上 瑤
話者 沓沢 キチエ
採集・再話 野村 敬子
整理・加筆 六渡 邦昭

 むがし、むがし。
 爺(じい)と婆(ばあ)どいであったど。貧乏(びんぼう)でな、正月来たども餅(もぢ)ひとづ食(くわ)ねほどだけど。
 爺な、毎日、編笠(あみがさ)を作って売って歩いでんなだけど。
 その日も、町の方さ、編笠を売りに行って、
 「編笠いらねでごですか、編笠いらねでごですか」
と歩いたけど。だれも買ってけんねなだけど。
 「こりゃあ、困ったもんだ。これ売らねば家(え)さ行っても、お飯(まんま)も食んね」
と、一所懸命「笠いらねでごですか」と売って歩いだど。ほんでも、町では、


 「ほんたものいらね」
 「前にもう買ったわ」
と、誰も爺どこ相手にしないど。
 夕方になったものだし、「仕方(しかた)ね」と、山道をトボトボ帰(け)って来たど。したれば、途中から、ザンザンと雨が降ってきたけど。雪も混ざって、それはそれは寒くなって来たど。
 「こりゃあ、早く帰らねんば」
と爺、急いで行ったれば、道の傍(わき)さ十二体の石のお地蔵様(じぞうさま)があって、雨雪にさらされて居(い)っと。
 「ないしたて、もったいないごんだ。こんげ寒(さぶ)いのに、地蔵様、何も被(かぶ)らねで。この笠ば被せて行ぐべ」
と、その爺は売り物の編笠ば、ひとつずつ被せで雨雪を防いでやったど。


 んでも、笠、十一しかねけど。
 「こりゃあ、困ったもんだ。仕方ね、俺(おら)の笠あんげっぺ。古くて気の毒(どく)だが、地蔵様、許(ゆる)して呉(け)ろちゃ」
と、自分の被った笠ばぬいで、終(しま)いの地蔵様さ被せで家さ帰って来たど。
 「婆、婆、ひどづも売れねけや、地蔵様さ被せで来たわ」
と、その晩、二人はお粥(かゆ)の薄(うす)いのをすすって早ぐ眠(ねぶ)ってしまったどは。
 夜中な、二人は目を醒(さま)したど。何やら大(おっ)きな音(おど)するなだけど。
 「爺、爺、あれ、なんだべ」
 ドシン、ドシンと音がして、それも爺の家の方さ向(むが)って来るど。人の足音もするど。

 
 「こりゃあ、何事だべ」
と、二人でじっと耳を澄(す)ませでいると、
 
 〽 編笠被せだ爺の家 どごだべな
   まだ 山のかげだべな
   編笠被せだ爺の家 どごだべな
   まだ 山のかげだべな
 
と、声がするど。
 「こりゃあ、大変だ。あの古い編笠など被せて来たので、地蔵様、怒(ごしゃえ)だなだが知んね」
と、爺達(だ)、青ぐなって震(ふる)えたっど。
 だんだん近ぐさ来て、
 
 〽 編笠被せだ爺の家 どごだべな
   まだ 山のかげだべな
 
と、叫(さか)ぶ声するど。爺は正直(しょうじき)なもんだし、隠(かく)れていられんねど。

 
 〽 編笠被せだ爺の家 どごだべな
 
と言うど、
 「はい、はい、申(もう)し訳(わけ)ありません。許してくだせ。ここです、地蔵様」
と、言ったれば、ドスーンと、大きな音がして、後はシーンとなっだど。 
 二人は、おっかねくで、ジーッとしていたども、あまり静かになったので、恐(おそ)る恐る戸を開げて見たれば、大きな袋(ふくろ)が家の前さ置(お)がれてあったけど。
 二人で開げて見たら、餅だの黄金(かね)だの、それはそれは、いっぱい入っていで、次から次へと出てくるど。
 「あ、あ、ありがてごんだ。ありがてごんだ。地蔵様、俺達あんまり貧乏なもんで、恵んで呉ったべ。あ、あ、ありがでごんだ」
て、よ。
 餅だの黄金だので、うんと良え正月ば迎(むか)えで、楽々(らくらく)と暮らしたけど。
 
  どんべからっこ ねっけど。

「地蔵むがし」のみんなの声

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